授業中、静かに居眠りしている雫に、お兄ちゃん先生の厳しい声が飛んだ。
「雫、また寝てるのか?授業中はちゃんと起きてないと、落第だぞ!」
その声に、雫は驚いて目を覚まし、顔をしかめながら不機嫌そうに呟く。「うるさいなぁ…ちゃんと起きてるってば。」雫は自分なりに言い訳をしてみたが、その態度は明らかに拗ねていた。授業中、彼女がこんな風に注意されるのはもう何度目か。芸能活動で忙しいのは分かるけど、やっぱり勉強のことも大事だって思ってくれているのだろう。だけど、その分、周りからの注目が強いことも彼女には重荷なのかもしれない。
そんな雫の背後で、ユリシアはそっと彼女の様子を伺っていた。おにいたんが雫を気にかけているのが、なんとなく面白くない。彼女が注目されるのは当然だとしても、自分だけに優しくしてほしいという気持ちがあるのだ。とはいえ、そういう感情を表に出すわけにはいかない。だからこそ、ユリシアは控えめに、しかしどこかからかうように雫に声をかけることにした。
ユリシアはそっと振り返り、雫に耳打ちする。「ねえ、雫ちゃん。また先生に怒られてたね。寝てたの、バレバレだよ?」小さく笑いながら、ユリシアは軽い口調で言った。
雫はすぐにムッとした表情を浮かべる。「何よ、あんたに関係ないでしょ。私はちゃんと目を休めてただけなんだから。」そう言ってぷいっと顔を背けるが、ユリシアにはその不機嫌な態度が少しおかしく感じた。
「でも、ほんとに落第しちゃったらどうするの?」ユリシアは少し真面目な声色に変えながら話を続けた。「先生も、雫ちゃんのこと心配してるんだよ。芸能活動で忙しいのは分かるけど、学校もちゃんとやらないとさ。」
雫はそれを聞いて、さらに顔をしかめた。「先生が心配?それは余計なお世話でしょ。私のことなんかほっといてもいいのに…。私には芸能界でやるべきことがあるんだから、勉強なんて二の次でいいの。」
その言葉を聞いたユリシアは、少し悔しい気持ちが胸に広がる。おにいたんが雫を気にかけていることが、やはり自分にとってはちょっとした嫉妬の種になっている。それでも、あまり露骨に感情を出すことはできない。
「うーん、でもおにい…先生は雫ちゃんのこと、すごく気にしてるよ。だから心配してるんじゃない?いつも目が届いてるもん。やっぱり大事な生徒だからかな?」
雫は少し顔を赤らめながらも、強がって返した。「はぁ?そんなわけないでしょ。私は注意されるから目立ってるだけで、別に特別扱いされてるわけじゃないし。」
ユリシアはその反応を見て、軽く肩をすくめた。「ふふ、そう?でも、私にはちょっと違って見えるけどな。雫ちゃん、先生にもっと褒めてもらいたいんじゃないの?本当は、ちょっと嬉しいんでしょ?」
その問いに、雫は顔を少ししかめて、「…何それ。そんなことないし。私は別に先生に期待してないもん。」と言い返すが、その言葉はどこか弱々しく聞こえた。
ユリシアは微笑みながら、少しだけ雫に歩み寄る。「まぁ、先生も私たちのことをちゃんと見てくれてるってことだよ。雫ちゃんが頑張ってるの、わかってると思うよ。でも、授業中に寝てるのは、やっぱりよくないんじゃない?先生も困ってると思うし。」
雫はその言葉に一瞬戸惑いながらも、少しだけ表情を緩めた。「…わかってる。次からは気をつけるよ。でも、ほんとにそんなに先生が私のこと気にしてるのかな?」
「もちろんだよ。先生はきっと、みんなのことちゃんと気にかけてるし、特に雫ちゃんみたいに目立つ子には注目してるんじゃないかな。」ユリシアは少し真剣な顔で、しかし優しい口調でそう言った。
雫は少し照れくさそうに顔を背け、「…ありがと。でも、あんたにフォローされるなんて、ちょっと屈辱的かもね。」と小さくつぶやいた。
ユリシアはその言葉に軽く笑い、「そんなことないよ。友達だから、ね。」と言って、自分の席に戻った。心の中では、おにいたんが雫を気にかけることに少しモヤモヤした感情を抱えているが、それでも雫との会話を通じて、少しは自分の気持ちも整理できたように感じた。
授業は再び静かに進んでいくが、ユリシアの心には少しだけ、雫に対して優しい気持ちと、それでもどこかで嫉妬心が残る複雑な感情が交差していた。おにいたんが雫のことを気にするのは仕方ないけれど、自分だけが特別な存在でありたいという気持ちは、やっぱりどうしても捨てられない。
そんなユリシアの心の中には、雫との関係を大切にしたいという思いと、おにいたん♡に対する独占欲が静かに混ざり合っていた。