雨に消えた言葉、心に残る想い

ユリシアの全力おにいたん計画

大雨の日、窓に叩きつける雨音が強くなっていく中で、ユリシアが再び「おにいたん、今日は行ってもいい?」と可愛く聞いてきた。高校生になってからは、彼女が頻繁にアパートに通うのは何となく避けたかった。それが噂になるのも嫌だったし、何よりユリシアが成長している今、彼女自身のプライバシーや周囲の目を意識してほしかった。だけど、ユリシアはそんなことお構いなしで、いつも通り無邪気に「おにいたんと一緒にいたい」と言ってくる。

「ユリシア、だめだって言ってるだろ。高校生にもなったんだから、頻繁に来るのはもうやめなさい。変な噂になるし…」口にした途端、強い口調になってしまっていた。ユリシアが一瞬驚いた表情を見せるのを見て、胸がチクリと痛んだ。

でも、ユリシアは負けずに「でも、おにいたんと一緒にいたいの!子供の頃みたいに、毎日晩御飯を一緒に食べて、手を握って寝たいの…」と涙ぐみながらも訴えてくる。その姿は痛ましくも、今は叱らなければいけないと自分に言い聞かせる。

「ユリシア、いい加減にしなさい!お前はもう大人なんだから、そんなことばかり言ってるのはおかしいんだ!今日は帰りなさい!」そう言った後、ユリシアはしばらく黙っていたが、涙をこらえて「…わかった」とぽつりと呟いた。

その後、ドアを静かに閉めて出て行くユリシアを見送った時、胸に重たいものが残った。彼女の寂しげな後ろ姿が頭に浮かんで、なんだか自分が酷いことを言ったような気持ちになった。彼女の気持ちを、もっと丁寧に受け止めるべきだったかもしれない。

「…やっぱり追いかけよう。」気付いたときには、傘を手に外に飛び出していた。大雨の中、ユリシアの姿を探しながら走った。どこだ…どこに行ったんだ…心配でたまらない。

やがて、遠くにトボトボと歩くユリシアの小さな姿が見えた。傘もささず、雨に打たれながら、まるで捨てられた子犬のように、泣きそうな顔で歩いている。服はびしょ濡れで、髪も顔に貼りついている。目には涙が浮かび、時折袖でぬぐいながら、ゆっくりと歩を進めていた。

「ユリシア!」と呼びかけても、彼女は振り向かなかった。僕は一気に彼女のもとに駆け寄り、傘を差しかけた。「何やってるんだ、こんな大雨の中で…」言葉が詰まった。ユリシアは一瞬僕を見て、「…平気だよ」と笑おうとしたが、涙が溢れてその笑顔も消えてしまった。

「平気じゃないだろ…そんな姿、見ていられないよ。」傘を握りながら、強がるユリシアに声をかけた。

「…だって、おにいたんが…」言葉をつまらせながら、ユリシアは泣き出してしまった。さっきの強がりは嘘だった。今まで我慢していた感情が堰を切ったように溢れ出てきた。「おにいたん、私のこともういらないの?もう一緒にいられないの?」その言葉を聞いた瞬間、僕の心は深く刺された。

「そんなこと、あるわけないだろ…」自然に出た言葉だった。僕はユリシアを強く抱きしめた。彼女はそのまま泣きじゃくり、僕の胸に顔を埋めて涙を流し続けた。「ユリシア、ごめんな…俺が悪かった。お前を傷つけるつもりなんてなかったんだ…俺だって、ずっとお前と一緒にいたいさ…」

「じゃあ、なんで…なんで叱ったの?」ユリシアは涙声で言った。「大人になったら、おにいたんと一緒にいちゃいけないの?変な噂になったら、それがそんなに大事なの?」

「違うんだ、ユリシア…俺はただ、お前を守りたかったんだ。お前のことを考えて、周りの目を気にしただけなんだ。でも、俺が悪かったよ。大切なのは、俺たちがどう思っているかだろ?ごめんな…本当にごめん。」僕は、もう一度強くユリシアを抱きしめた。彼女の体がびしょ濡れで冷たかったが、心の距離は温かく感じられた。

「…おにいたん、本当に?」ユリシアは泣きながら、僕の顔を見上げて聞いてきた。

「本当だよ。もう二度と、お前を無理に帰らせたりしない。俺のアパートに来たい時はいつでも来ていいんだ。ただ、俺も少し心配だったんだ。お前が高校生になったから、もっと自分のことを大切にしてほしかったんだ。でも、お前がそんなに俺と一緒にいたいと思ってくれるなら、俺だって断る理由はないさ。」

ユリシアは顔をくしゃくしゃにして笑った。「おにいたん…ありがとう。私、ずっと一緒にいたいの。おにいたんのそばにいたいの。」そう言って、彼女は再び僕にしがみついた。

それから、雨が止むまで二人はしばらくの間、何も言わずにただ抱きしめ合っていた。大雨の音が静かに消えていく中で、心の距離は少しずつ近づいていた。そして、あの出来事をきっかけに、僕はユリシアがアパートに来ることを許すようになった。彼女との時間が、僕にとっても大切なものだと再認識させられた。

この一連の出来事で、僕たちの関係はまた少し変わった。喧嘩するほど仲が良いとは、まさにこのことだろう。