その日、学院の静かな廊下を歩いていた渚先生は、ふと立ち止まり、ひとり考え込んでいた。生徒・茉里絵さんが受けている雫さんによるグラビア特訓のことが気になっていたのだ。生真面目で控えめな茉里絵さんにとって、このような訓練が負担になっていないか…教師として、自分の立場をどうすべきか悩ましいところだった。
「少し過激なのでは…?」と、小さな声で自問する。そのとき、渚先生の様子に気づいた和先生が、穏やかな微笑みとともに声をかけてきた。
「渚先生、何かお困りですか?」
驚きつつも渚先生はその温かい視線に、自然と心を開いてしまった。「ええ、実は…」と小声で切り出し、茉里絵さんが雫さんの指導を受けていること、そしてグラビア特訓が少し行き過ぎているのではと感じていることを打ち明けた。
「その…茉里絵さんは以前から自分の体にコンプレックスを抱いているようで、無理をさせるのはどうかと思うのです。雫さんが意図せずプレッシャーをかけてしまっていないか…」
和先生は渚先生の言葉を一つ一つ真剣に聞き、考え込むように頷いた。「なるほど…。確かに、茉里絵さんの気持ちは大切ですね」
和先生の共感に渚先生も少し安心し、続ける。「そうなんです。もちろん、雫さんも一生懸命に教えてくれているのですが、茉里絵さんは自分のペースで自信をつけていくべきではないかと。私自身、教師としてどう対処すべきか毎日悩んでしまいます」
和先生は優しい表情で言葉を返した。「茉里絵さんがどのように感じているのか、そこが一番大事ですね。ただ、茉里絵さんの反応を聞いた限り、心から嫌がっているわけではなさそうですし、雫さんも渚先生がいる場面で指導しているというのは、配慮もあるのではと感じます。もう少し見守って、茉里絵さんの反応を見ても遅くないのではないでしょうか」
「なるほど…」渚先生は少し表情を和らげた。「確かに、茉里絵さんも自分の知らない一面を見つけようと挑戦しているようにも見えますね」
和先生は深く頷きながら続けた。「彼女にとって自信を持てるきっかけになるのなら、少し様子を見てサポートしながら、無理のない範囲で応援してあげるのも良いかもしれません」
渚先生はその言葉に、ほっと胸を撫でおろした。「ありがとうございます、和先生。お話ししていると、少し肩の荷が下りた気がします。私も、茉里絵さんの気持ちに寄り添いながら、そばで見守りたいと思います」
和先生は優しく微笑んで頷いた。「いつでも相談してください。渚先生が生徒を思う気持ちがある限り、きっと彼女にとって素晴らしい指導になるはずです」
「本当にありがとうございます」と、感謝の気持ちを込めて頭を下げる渚先生。その胸には、教師としての役割を果たすため、そして生徒たちの成長を見守る覚悟が、新たに芽生えつつあった。