私のたからもの(如月柚羽)

如月柚羽の視点柚羽の日記第2学年

ドーン、と。
お腹の底に響く音と一緒に、夜空いっぱいに光の花が咲き乱れる。湖の水面にもう一つの花が咲いて、世界がキラキラしたもので満たされていく。綺麗……。こんなにたくさんの光に包まれたのは、生まれて初めてかもしれない。

今までの夏は、お店の手伝いをするのが当たり前だった。花火の音を遠くに聞きながら、帳簿とにらめっこしたり、商品の数を数えたり。それは私の大事な日常で、不満なんてなかった。でも、今、私の隣には雫先輩がいて、前にはユリシア先輩と茉里絵先輩がいて、後ろからは和先生と渚先生の優しい声が聞こえる。

「柚羽、これ美味しいわよ」
「柚羽ちゃんも飲んで!」

先輩方が分けてくれるお菓子やお茶は、なんだか特別に甘くて、温かい。その優しさが、打ち上がる花火の光みたいに、私の心をじんわりと照らしていく。

ふと、和先生の言葉を思い出した。
『信用は、目に見えない資産なんだ』
授業で聞いた時は、少し難しい言葉だと思った。でも、今なら、ほんの少しだけ意味が分かる気がする。

私を信じて「あんたみたいな優しい子が保健室にいたら、みんな安心する」と言ってくれた雫先輩。私を「仲間なんだから」と当たり前のように受け入れてくれた皆さん。この温かくて、心地良い関係そのものが、きっと「信用」で、お金では絶対に買えない、かけがえのない「資産」なんだ。私の、たからもの。

(この景色、お父さんやお母さんにも見せてあげたいな……)

私がもっと会計を学んで、お店の経営が少しでも楽になったら。いつか家族みんなで、こんな風にゆっくり花火を見上げられる日が来るだろうか。

「……最高!」

雫先輩の弾んだ声に、私はハッとして隣を見た。満面の笑みで空を見上げるその横顔は、いつもよりずっと優しく見えた。グランドフィナーレの、ひときわ大きな花火が、私達の頭上で眩い光のシャワーを降らせる。

「また来年も来ればいいじゃない」

当たり前のようにそう言ってくれる先輩に、胸がいっぱいになる。嬉しくて、泣きそうになって、私は精一杯の気持ちを込めて振り返った。

「はいっ!」

きっと、今の私、ちゃんと笑えてる。
この光景を、この温もりを、絶対に忘れない。勉強も、家のことも、もっともっと頑張ろう。そして来年も必ず、この大切な人たちと、この場所で──。

夜空に咲いた大輪の花に、私はそっと、未来への願いを込めた。