渚先生の日記:2025年8月18日(月)晴れ(第2学年編・12-2)

渚先生の日記第2学年

2025年8月18日(月)晴れ

あと、五日。
カレンダーに付けた小さなハートマークが、ようやく目の前に近づいてきた。
八月二十三日、土曜日。和先生との、二回目のウォーキングデートの日。

正直に言うと、この二週間は、本当に長かった…。

あの日、先生からチャットが届いた時の、心臓が「ひゅっ」と小さくなる感覚を、今でも思い出せる。

和先生
和先生

ごめん、今週は夏期講習の準備でどうしても行けなくなった

分かってる。分かってるの。先生が、生徒たちのためにどれだけ真剣に取り組んでいるか。その誠実な姿も、私が先生を好きな理由の一つなんだから。

でも、頭で分かっていても、心がついてこなくて。
夏期講習に参加しているのは、ユリシアさん、雫さん、茉里絵さん…みんな、先生に想いを寄せる、私の大切な「恋敵」たち。先生が、私と会えない時間、あの子たちと一緒に過ごしている。そう思うだけで、胸がチリチリと焦げるような気持ちになる。

「次は二十三日に」というメッセージに、指先が冷たくなっていくのを感じた。二週間以上も先…。せっかく、あのモールで少しだけ距離が縮まったと思ったのに、また遠くに感じてしまって、本当に泣きそうだった。

その夜は、全然眠れなかった。

渚

先生は、私のこと、本当はどう思ってるんだろう

渚

ただの、都合のいい同僚なのかな

簿記のことなんて全く分からない私より、一緒に勉強しているあの子たちの方が、先生にとってはもっと大切な存在なんじゃないか…って。そんな弱気な考えばかりが、頭の中をぐるぐる回って…。

でも、そんな時、私を救ってくれたのも、やっぱり先生との思い出だった。
ふと、春に行ったバラ園のことを思い出したの。

あの日の、少し照れたような先生の笑顔。
『渚らしい選択だ』って、私の選んだバラを褒めてくれた時の、優しい声。
そして、おぼつかない足取りの私を気遣って、そっと握ってくれた、大きくて不器用な手のひらの温かさ…。

1枚目のイラスト:日記を読み返して思い出に浸る渚先生

思い出すだけで、胸の奥がじんわりと温かくなって、冷たかった指先に、また血が通い始めるのを感じた。
そうだ。先生は、ちゃんと私を見てくれている。私のことを、考えてくれている。
だから、大丈夫。信じて待とう、って。

そして、やっと、あと五日。

この二週間、ただ待っていただけじゃないんだから。
先生が買ってくれた、あのワインレッドのカーディガン。クローゼ-ットから出しては、何度もそっと羽織ってみた。少しだけ、先生の香りがするような気がして…。
当日は、少し暑くても、絶対にあのカーディガンを着ていく。それが、私の「会いたかった」っていう、精一杯のメッセージ。

今度会ったら、何を話そうかな。
勇気を出して、簿記の夏期講習のこと、聞いてみよう。「ユリシアさんたち、頑張ってますか?」って、笑顔で。
先生が真剣に仕事の話をする時の、あの知的な横顔が、私は大好きなんだ。嫉妬なんてしている場合じゃない。教師として、私もあの子たちの頑張りを応援しなくちゃ。

もう、「頼りになる同僚」の私だけじゃ、嫌。
先生の隣で、一緒に笑って、一緒に悩んで、そして、先生の心を少しでも癒せるような…そんな存在に、私はなりたい。

よしっ!
あと五日、自分磨き、頑張らなくちゃ!💪✨
先生が、思わず「綺麗だ」って、ドキッとしてくれるように。

十年越しのこの想い、ようやく本当の意味で走り出したのだから。