2025年9月15日:偽りのお月見は、愛のサプライズ 🎑💖(第2学年編・21-3)

トゥインクル☆バニーダンスユリシアの全力おにいたん計画第2学年

2025年9月15日(月曜日)

第1章:決戦の夜

9月15日、月曜日(祝日)。夕暮れの空が茜色から深い藍色へと移り変わる頃、和先生の家のリビングは、ユリシアの期待と幸福感で満たされていた。

「おにいたん♡、見て!お団子、すっごく上手にできたよ!🍡✨」

テーブルの上には、きな粉と黒蜜がたっぷりかかった、つやつやのお月見団子が湯気を立てている。そして、その隣に立つユリシアは…この日のために用意した、とっておきのバニースーツ姿だ。🐰💕ふわふわの白い尻尾と、ぴょこんと立った青いウサギの耳が、彼女の可愛らしさを最大限に引き立てている。

「ああ、本当だ。美味しそうだね」

和先生は少しだけ目を泳がせながら、必死に平静を装っていた。昨日、雫から「サプライズ計画」の全貌を聞かされ、共犯者になることを了承したものの、目の前で繰り広げられる、愛する婚約者のあまりにも健気で、あまりにも盛大な勘違いに、胸が愛おしさで張り裂けそうだったのだ。

(すまない、ユリ…。でも、もう少しだけ…)

「さあ、おにいたん♡!縁側に行こう!きっと、もうすぐお月様が一番きれいな時間だよ!」

ユリシアがうきうきと彼の袖を引いた、まさにその瞬間だった。

ピンポーン。🛎️

無情にも、玄関のチャイムが鳴り響いた。

「あれ?誰だろう?」

ユリシアが不思議そうに首をかしげる。和先生は「ちょっと見てくるよ」と、計画通りに玄関へと向かった。

第2章:招かれざる(?)客たち

「「「サプライズ大成功~!!!🎉」」」

ドアを開けると同時に、クラッカーの音と共に、三人の少女と一人の大人の女性がなだれ込んできた。

「え…えぇぇぇっ!?😱」

ユリシアは目を丸くして固まっている。目の前には、うさぎ饅頭の箱を抱えた雫、最高級の緑茶セットを持つ茉里絵、手作りのうさぎの刺繍入り巾着を差し出す柚羽、そしてなぜか大きなクーラーボックスを抱えた渚先生が、満面の笑みで立っていた。

「みんな…どうしてここに…?」

「決まっるじゃない!」雫が悪戯っぽく笑う。「あんたが『お月見デート♡』なんて言うから、みんなで応援に来てあげたのよ!」

「まあ、ユリちゃん。お二人だけの時間を邪魔するつもりはなかったのですけれど、雫さんがあまりにも熱心にお誘いになるものですから」茉里絵が扇子で口元を隠しながら、上品に続ける。

「ユリシア先輩、この巾着、よかったら…!」柚羽がおずおずと巾着を差し出す。

「ユリシアさん、和先生。差し入れに、冷たい麦茶と…それから、旬のぶどうをたっぷり使ったフルーツタルトも焼いてきましたっ!🍇🥧」渚先生がにっこりと微笑む。

ユリシアの頭は、完全にパニックだった。二人きりの甘いお月見デートが、一瞬にして賑やかな女子会へと姿を変えてしまったのだから。

第3章:残酷な真実と、優しい嘘

「…というわけなんだ、ユリ」

リビングに全員が集まり、和先生が申し訳なさそうに切り出した。雫から事前に聞かされていた「サプライズ計画」のシナリオ通りに。

「実は、今年の中秋の名月は、来月の十月六日でね。今日は、まだ満月には少し早いんだ」

「…………え?」

ユリシアの時間が、止まった。手に持っていたお団子の皿が、カタン、と小さな音を立てて傾く。彼女はゆっくりとカレンダーに視線を移し、そして今日の日付をもう一度確認した。

「う…そ…😭」

みるみるうちに、彼女の大きな瞳に涙が溜まっていく。顔は、熟れた林檎のように真っ赤だ。盛大な勘違い。秘密の特訓。完璧だと思っていた計画。その全てが、ガラガラと音を立てて崩れていく。

「ご、ごめんなさい…!私、私…!」

雫と茉里絵は、必死に笑いを堪えている🤭。柚羽は、泣きそうな顔のユリシアを見て、オロオロするばかりだ。渚先生は、不憫に思いながらも、この状況をどう収拾すべきか言葉を探している。

ユリシアの肩が、小さく震え始めた。その時だった。

第4章:王様(おにいたん)の、斜め上のサプライズ

「でもね、ユリ」

和先生が、これ以上ないほど優しい声で、彼女の名前を呼んだ。そして、涙をこぼし始めたユリシアの頭を、わしゃわしゃと撫る。

「君の勘違いは、昨日、雫から全部聞いていたよ」

「え…?」

雫たちも、驚いて和先生を見る。

「だから、君ががっかりしないように、みんなに協力をお願いしたんだ。君のためだけの『サプライズお月見パーティー』を開こうってね」

それは、雫が提案した計画そのものだった。しかし、和先生の口から語られると、まるで最初から彼が仕掛け人だったかのように聞こえる。

「それに…」彼は続けた。その瞳は、キラキラと輝いている。

「君が日付を間違えてくれたおかげで、今日という日が、もっと特別な日になった。ありがとう、ユリ」

「とくべつ…?」

ユリシアが涙声で聞き返す。雫も、茉里絵も、渚さえも、固唾をのんで彼を見守った。まさか、この流れは…。

和先生は、おもろにテレビ台の棚から、大きな紙袋を取り出した。

「実は、今日が発売日だったんだ!『トゥインクル☆バニーダンス』の劇場版、初回限定版ブルーレイボックスが!📀✨」

「「「「「…………は?」」」」」

ユリシアを含む、女性陣全員の声が、綺麗にハモった。

和先生は、そんなことにはお構いなしに、宝物のように箱を掲げてみせる。

「君が、俺のために一生懸命バニーの練習をしてくれているのを知って…俺も、この感動を君と分かち合いたくなったんだ!さあ、見てくれ!これが特典のアオちゃん1/6スケールフィギュアと、三つ子バニーズが描かれた描き下ろしB2タペストリーだ!🤩」

彼はそう言うと、満面の笑みで、三つ子バニーズの末っ子・アオちゃんの特典グッズをユリシアに見せつける。

「さあ、ユリ!君は最高のバニー姿だ!そしてここには君が作ってくれた最高のお団子もある!最高の環境で、最高の作品を見る!これ以上の『特別』があるかい!?😤」

第5章:喜劇の舞台と、呆れる観測者たち

その瞬間、部屋にいた他の四人の女性たちの緊張は、一斉に崩壊した。

(こ…このおっさん…やっぱりこれよ…!!🤦‍♀️)雫は、額に手を当てて天を仰いだ。自分たちが仕掛けたはずの、愛しいドジっ子をからかうための喜劇。それは確かに喜劇のままだったが、脚本・演出、そして主演男優が、完全に自分たちの想像の斜め上を行っていた。

(まあ…!これが…これが、和先生という方なのですね…)茉里絵は、扇子で顔を隠しながらも、その肩はくすくすと震えている。

(よかった…ユリシア先輩、泣き止んだ…のかな?)柚羽は、状況がよく飲み込めていないが、とりあえず最悪の事態は免れたことに安堵していた。

そして、渚。彼女は、言葉もなく立ち尽くしていた。誕生日を前に、29歳になる焦りと共に、大人の女性として恋の決戦に臨もうとしていた相手。その相手は今、目をキラキラさせながら、アオちゃんのフィギュアの出来がいかに素晴らしいかを熱弁している。

(私が…私が十年以上も想い続けてきた男性って…)

彼女の胸に燃え上がっていた決意の炎は、あまりのことにフッと鎮火しかける。だが、その時だった。和先生が、少年のような無邪気な笑顔を、その場にいる全員に向けたのだ。その純粋すぎる喜びの表情に、ユリシアが心から幸せそうに笑うのを見て、渚の心に別の感情が灯る。

(全く…本当に、昔から変わらないんだから…)

呆れと、ほんの少しの愛おしさ。鎮火しかけた炎は、形を変えて再び燃え上がった。それはもう、恋敵と戦うための激しい炎ではない。どうしようもなく子供っぽい、愛しい人を、なんとかして大人の道へと導いてあげなければという、奇妙な使命感の炎だった。🔥

「さあ、みんな!せっか集まってくれたんだ!ユリシアが作ってくれた世界一美味しいお団子を食べながら、人類の至宝ともいえるこの名作を、一緒に鑑賞しようじゃないか!」

和先生が、有無を言わさぬ勢いでブルーレイをセットする。ユリシアは、一瞬ぽかんとしていたが、おにいたんのあまりにも楽しそうな顔を見て、つられて笑顔になった。

「う、うん!おにいたん!」

その夜、和先生の家で開かれた「偽りのお月見会」は、誰も予想しなかった形で幕を閉じた。

主役のウサギは、涙の代わりに最高のお団子を振る舞い、共犯者たちは、それぞれの胸に呆れと、なぜか少しの安堵を抱えながら、大音量で流れる主題歌を聞くことになった。🎶

そして、夜空には、満月にはまだ遠い、けれど美しい月が、静かに輝いていた。