姉妹の朝 ~恥ずかしすぎる告白の翌日~(第2学年編・33-6)

第2学年雫の日記
2025年11月1日(土曜日)

11月1日(土曜日)午前7時。

私、立野雫は、実家のアパートの布団の中で、目を覚ました。

立野雫 アイコン

隣では、妹の美咲が、スヤスヤと気持ちよさそうに眠っている。

立野美咲 スヤスヤ

(…あー…朝だ…)

私は、ぼんやりとした頭で、天井を見つめていた。

そして、次の瞬間。

(…!!!)

昨日の夜のことが、フラッシュバックのように蘇ってきた。

「私、先生のこと、尊敬してる」

「これからも、先生から、色々学ばせてください」

(…あああああああああっ!!!)

私は、布団をかぶって、身悶えした。

(なんで、あんなこと、みんなの前で言っちゃったんだろぉぉぉぉ!!!)

みんなの驚いた顔。

ユリシアの「雫ちゃん、顔真っ赤だよ~?」っていう意地悪な笑顔。

茉里絵の「あら…雫さん、素直になりましたわね」っていうクスクス笑い。

そして、和先生の「雫、ありがとう。嬉しいよ」っていう優しい言葉。

(…もう、無理…!恥ずかしすぎる…!)

私は、布団の中で、顔を真っ赤にして、ジタバタしていた。

でも、一人で悶々としていても、どうにもならない。

(…そうだ。美咲に相談しよう)

私は、隣で眠っている妹を見た。

美咲は、11歳。小学5年生。

でも、妙に大人びていて、私より冷静なことも多い。

(美咲なら、何かアドバイスくれるかも…)

私は、意を決して、美咲を揺り起こした。

「美咲…起きて…」

「ん…?お姉ちゃん…?まだ…早い…よぉ…」

美咲は、眠そうに目をこすりながら、私を見た。

「ごめん、美咲。ちょっと、相談があって…」

「相談…?」

美咲は、まだ半分寝ぼけた顔で、私を見つめている。

「あのね…昨日、先生の家に行ったじゃん?」

「うん…おじちゃん…和先生の家…」

美咲は、和先生のことを「おじちゃん」と呼んでいる。

二人は、アニメ「鋼鉄天使ミカ」を通じて仲良くなった。

「それでね…その…」

私は、顔を真っ赤にしながら、昨日のことを話し始めた。

「私、みんなの前で、先生に、その…『尊敬してる』って言っちゃったの…」

「…へぇ」

美咲は、まだ眠そうだ。

「それで、『これからも色々学ばせてください』とか、そういうこと言っちゃって…」

「ふーん…」

美咲は、あくびをしながら、私の話を聞いている。

「それで、みんなにビックリされて、茉里絵にはクスクス笑われて、ユリシアには『顔真っ赤だよ~?』って言われて…」

「…うん」

「で、でも、先生が『雫、ありがとう。嬉しいよ』って言ってくれて…」

そこまで言った瞬間、美咲の目が、パチッと開いた。

「…え?」

美咲は、急に目を覚ましたように、私を見つめた。

「お姉ちゃん、今、何て言った?」

「え…?だから、先生が『嬉しいよ』って…」

「おじちゃんが、お姉ちゃんの告白に、『嬉しい』って言ったの!?」

「こ、告白じゃないから!尊敬してるって言っただけだから!」

私は、慌てて否定する。

でも、美咲は、もう完全に目が覚めた様子で、ニヤニヤしながら私を見ている。

「お姉ちゃん、良かったじゃん♡♡」

「な、何が良かったのよ!恥ずかしくて、もう学校行けないわよ!」

「なんで困ってるの??」

美咲は、不思議そうに首を傾げた。

「だって、みんなの前で、あんなこと言っちゃって…」

「でも、おじちゃん、『嬉しい』って言ってくれたんでしょ?」

「そ、それは…そうだけど…」

「じゃあ、良かったじゃん!」

美咲は、満面の笑みで、私の肩をポンポンと叩いた。

「お姉ちゃん、おじちゃん、すっごく鈍感だよ?」

「え…?」

「だって、いつも優しいけど、誰に対しても平等だし、恋愛のこととか全然分かってないもん」

「…それは、そうかもしれないけど…」

「だから、お姉ちゃんからどんどん攻めてかないと、一生気づかれないと思うよ」

美咲は、11歳とは思えない、大人顔負けのアドバイスをする。

「せ、攻めるって…!?」

「だって、お姉ちゃん、おじちゃんのこと、好きなんでしょ?」

「す、好きって…!そ、そんなんじゃ…!」

私は、顔を真っ赤にして、否定しようとする。

でも、美咲は、ジッと私を見つめて、言った。

「お姉ちゃん、嘘つくの下手だよ」

「…!」

「お姉ちゃんが、おじちゃんの話するとき、すっごく嬉しそうな顔するもん」

「そ、そんなことない…」

「それに、『簿記1級取りたい』って言い出したのも、おじちゃんみたいになりたいからでしょ?」

「…!」

美咲の言葉に、私は何も言い返せなくなった。

「お姉ちゃん、昨日、勇気出して、ちゃんと気持ち伝えたんだよ。それ、すごいことだよ」

「でも…恥ずかしくて…」

「恥ずかしくてもいいじゃん。お姉ちゃんの気持ち、おじちゃんに届いたんだから」

美咲は、優しく微笑んだ。

「それに、おじちゃん、『嬉しい』って言ってくれたんでしょ?」

「…うん」

「じゃあ、次は、もっと頑張って、お姉ちゃんの気持ち、もっと伝えなきゃ」

「も、もっとって…どうやって…」

「んー、例えば、おじちゃんに、お弁当作ってあげるとか?」

「お、お弁当!?」

「うん!お姉ちゃん、料理上手だし、きっとおじちゃん、喜ぶよ♡」

「で、でも…先生に、お弁当なんて…」

「大丈夫だよ。『いつもお世話になってるので』って言えば、自然じゃん」

美咲は、にっこりと笑う。

「それに、お姉ちゃん、私のために、毎朝お弁当作ってくれてたじゃん。それを、おじちゃんにも作ってあげればいいだけだよ」

「…そうだけど…」

「あ、それとね」

美咲は、何かを思い出したように、続けた。

「この前、おじちゃんと一緒にアニメ見たとき、『雫は頑張り屋さんだ』って言ってたよ」

「え…?」

「『雫は、家のことも、アイドルのことも、勉強のことも、全部頑張ってて、すごいなぁ』って」

「せ、先生が…そんなこと…?」

「うん。それでね、『俺も、もっと雫の力になってあげたいんだ』って言ってた」

「…!」

私の胸が、キュッと締め付けられた。

(先生…そんなこと、思っててくれたんだ…)

「だから、お姉ちゃん、自信持って。おじちゃん、ちゃんとお姉ちゃんのこと、見ててくれてるよ」

美咲は、私の手を握って、優しく言った。

「お姉ちゃん、いつも私のために頑張ってくれてるじゃん。今度は、お姉ちゃんが、自分のために頑張る番だよ」

「美咲…」

私は、涙が出そうになった。

「お姉ちゃん、おじちゃんのこと、好きなんでしょ?」

「…うん」

私は、ついに、素直に認めた。

「好き。……すごく、好き」

「じゃあ、頑張ろう!私も応援するから♡」

美咲は、満面の笑みで、私を抱きしめてくれた。

「ありがと♡、美咲…」

「えへへ♡ お姉ちゃん、頑張ってね!」

その時、布団の中で、私たちは、しばらく抱き合っていた。

(…よし。私、頑張る)

私は、心の中で、決意を新たにした。

(先生のために、1級、絶対に取る)

(そして、いつか、先生の隣に立てるようになる)

(今は、まだ、生徒と教師だけど…)

(いつか、きっと…)

私の頬が、少し赤くなった。

「お姉ちゃん、顔赤いよ?」

「う、うるさいわね!」

私は、美咲の頭をグリグリと撫でた。

「いたたたた!お姉ちゃん、やめてよぉ~!」

美咲は、笑いながら、私から逃げようとする。

二人で、布団の中で、じゃれ合った。

そんな、いつもの、幸せな朝。

でも、今日の朝は、少しだけ特別だった。

(私、頑張る。先生のために。そして、美咲のために)

窓の外から、朝日が差し込んできた。

新しい一日の始まり。

立野雫

そして、私の、新しい挑戦の始まり。

「お姉ちゃん、朝ごはん作ろう!」

「うん!今日は、美咲の好きなオムレツ作ってあげる!」

「やったぁ~♡」

私たちは、布団から飛び出して、キッチンに向かった。

いつもの、姉妹の朝。

でも、私の心の中には、新しい決意が芽生えていた。

(先生、待っててね。私、もっともっと頑張るから)

そして、私の恋は、また一歩、前に進んだ。

【後日談】

その日の夕方、美咲は、和先生に電話をかけた。

「もしもし、おじちゃん?」

『おお、美咲ちゃん。どうしたの?』

「あのね、おじちゃん。お姉ちゃんがね、すっごく頑張ってるの」

『そうなんだ。雫は、いつも頑張ってるよね』

「うん!だから、おじちゃんも、お姉ちゃんのこと、ちゃんと見ててあげてね」

『ああ、もちろん。雫のこと、いつも見てるよ』

「えへへ♡ ありがとう、おじちゃん!」

美咲は、満足そうに、電話を切った。

(お姉ちゃん、頑張ってね。私も、応援してるから)

美咲は、窓の外を見ながら、姉のことを想った。

姉妹の絆は、これからも、ずっと続いていく。