放課後の図書室。窓から差し込む夕日が、静かな空間を優しく照らしている。テスト週間を前に、数人の生徒たちが簿記の勉強に励んでいた。
ユリ
もう〜！この簿記の仕訳問題、全然わからないよ〜。おにいたん♡が昨日教えてくれたのに、私、全然覚えられないの…
雫
そんなに「おにいたん♡」って言わなくても…。あんた、そんなにベタベタして、恥ずかしくないの？学院内ではもう少し自重したら？
ユリ
だって、おにいたん♡はずっと私のおにいたんだもん！それに…みんなにはわからない特別な関係だし…
茉里絵
まあまあ、お二人とも…図書室では静かにした方がよろしいですわ。他の方々の勉強の邪魔になってしまいますもの。それより、雫さんの説明、とても分かりやすかったですわ。
ユリ
でも、おにいたん♡との婚約のこと、みんなに言えたらいいのに…。秘密にしておくのって、難しいよぉ…特に雫ちゃんがいつもおにいたん♡のことを気にしてるみたいだし…
雫
何よ、そんな目で見て…。ユリシア、この仕訳の問題、もう一回説明してあげるわよ。借方と貸方のバランスを考えないとダメなの。ほら、こうやって合計金額を計算するだけよ。あんたいつもあのおっさんばっかり頼ってるけど、たまには自分でやりなさいよ。
雫
でも、和先生と二人きりの特別レッスンを受けてる私が、みんなの前で教えなきゃいけないなんて…。あの人の丁寧な説明を思い出すだけで胸がドキドキする…。放課後に和先生を独占できるのは私だけなのに…。って、ちょっと！私、何考えてるのよ！
茉里絵
雫さん、意外と教え上手ですわね。きっと和先生の指導の賜物なのでしょうね。私も少し教えていただけませんこと？このT字勘定の記入方法、どのように整理すればよいのか…
茉里絵
雫さんと和先生…放課後の特別レッスン…。淑女たるもの、そのような妄想をするべきではありませんわ。でも、和先生と二人きりで勉強できるなんて…うらやましいですわ…。
そのとき、図書室のドアが静かに開く音が—
和
お、みんな簿記の勉強しているところだったか。テスト前で頑張ってるね。何か困っていることはあるかな？
ユリ
おにいたん♡！ちょうどいいところに！このT字勘定の問題が全然わからなくて…雫ちゃんが教えてくれたけど、やっぱりおにいたん♡に教えてもらうのが一番だよ…
雫
もう…あっという間におにいたん♡モードになるし…。しかも私が教えたの、全然聞いてなかったってこと…？でも、和先生がこの場にいると、私の心も落ち着かないんだよね…。どうして私、こんな気持ちになっちゃうんだろう…。
和
ユリシア、雫が教えてくれたんなら、まずはその内容をしっかり理解することが大事だよ。T字勘定は簿記の基本だから、借方と貸方の理解が必要なんだ。雫の説明でどこが分からなかったのか、具体的に質問してみようか。
雫
あ、和先生…。私もちょっと質問があるんですけど…。この仕訳が貸借対照表とどう関連するのか、よく分からなくて…。
ユリ
あれ？雫ちゃん、今「和先生」って言った？いつもは「あんた」とか「おっさん」って言ってるのに…。もしかして、雫ちゃんもおにいたん♡のこと…？
そこへ渚先生が資料を手に図書室に入ってくる
渚先生
和先生、ここにいらしたんですね。職員会議の資料をお持ちしました。あら、みなさん簿記の勉強中でしたか？テスト前で大変ですね。
雫
な、何よ！そんなこと誰も聞いてないわよ！（顔を真っ赤にして）…おっさん！この問題が全然わからないの！ちゃんと教えなさいよね！
渚先生
和先生、またいつの間にか生徒に囲まれてる…。あの学生の頃から変わらない優しい笑顔…。みんなに慕われるのも当然ね。私も大切な生徒のためとはいえ、少しだけ先生の時間を独占したいな…。あっ、なんて考えてるの私！しっかりしなきゃ！
和
ありがとう、渚先生。資料は後で拝見します。（雫の方を向いて）おっさんって言われると少し複雑だな（笑）。でも、雫の質問は的確だね。貸借対照表と仕訳の関係は重要なポイントだから、みんなで整理してみよう。
茉里絵
和先生、私も貸借対照表について質問がございますわ。特に資本の部分について、もう少し詳しく教えていただけませんこと？
ユリ
えー、私が先がいいな…。でも、みんなも質問があるんだね。じゃあ、雫ちゃんが先でもいいよ…。あとでおにいたん♡とゆっくり復習できるもんね！
ユリ
おにいたん♡と雫ちゃん…。放課後の特別レッスンって何してるんだろう…。おにいたん♡は婚約者の私だけを見てくれてるって信じてるけど…。雫ちゃんがさっき「和先生」って呼んでたの、なんだか気になるな…。
和
みんな、こんな風に熱心に質問してくれて嬉しいよ。それじゃあ、雫の質問から始めて、順番に茉里絵、ユリシアと進めていこうか。貸借対照表は財務諸表の基本だから、簿記全体を理解する上でとても重要なんだ。
渚先生
和先生、素晴らしいですね。私も学生時代に和先生から簿記を教わりましたが、分かりやすい説明で本当に助かりました。生徒たちも幸せですね。
雫
な、なんで…なんであんたはそんな優しいのよ…私のことちゃんと見てくれてて…あぁもう、胸がドキドキする…♡ でも渚先生ってば…和先生と昔から知り合いなの？なんか妙に親しげな雰囲気だし…気になる…。
茉里絵
和先生、いつもそうやって生徒のことを考えてくださって…。そんなところが素敵ですわ…。渚先生が和先生の教え子だったなんて…私も特別な生徒になれたらいいのに…。
夕日が徐々に沈んでいく中、図書室では和先生を中心に勉強会が続いていった。それぞれの思いを胸に秘めながらも、この穏やかな時間を大切にしている様子だった。時々渚先生から和先生へ向けられる特別な視線や、ユリシアの甘えた笑顔、雫のツンデレな態度、茉里絵の上品な振る舞い—それぞれが自分なりの方法で和先生への思いを表現していた。
