放課後の紅茶会サロン。
窓から差し込む夕陽が、白磁のティーカップを淡く照らしていた。
「……では、次の招待状はこの封筒でいかがでしょう?」
「うん、ぴったりだと思います」
机に並んで座っているのは、橘茉里絵と如月柚羽。
学院の伝統行事「親睦紅茶会」の準備委員として、ふたりは今週の活動に選ばれていた。
「それにしても、あなたの字……とても綺麗ですわね。如月さん」
「え、ありがとうございます……。実は、習字を少しだけ……」
「納得ですわ。筆圧と流れるような筆致、まさに和と洋の融合といったところかしら」
「……茉里絵さんの言葉選びも、すごく品があって素敵です」
「まあ……お世辞でも嬉しく思いますわ」
(素直すぎて、嘘がない……。こういうタイプ、昔の私なら苦手だったかもしれませんわね)
当初、上級生としての威厳を保とうとした茉里絵だったが、柚羽の控えめながら芯のある態度に、次第に敬意のようなものを抱き始めていた。
「ところで、如月さん。あなた、ユリシアさんや雫さんとは、もう仲良くなりましたの?」
「はい。お二人ともとても優しくしてくださって……。でも、やっぱり、どこか“眩しくて近づきづらい”感じもします」
「ふふっ、それは……分からなくもありませんわ」
「でも……茉里絵さんとこうして過ごしてみて、何だか、すごく落ち着けるというか……」
「まぁ……」
「上品で、おだやかで……。それでいて凛としていて……。私、こんなふうになりたいって、ちょっと思いました」
「…………っ」
(この子……本当に、なんて素直な……)
「……ならば、その願い、私が叶えるお手伝いをいたしますわ。如月さん」
「え……?」
「礼儀作法でも、立ち居振る舞いでも、わたくしの知っていること、すべて伝授いたします。あなたには、それを受け取る素質があるもの」
「……はい! よろしくお願いしますっ!」
サロンの窓の外では、初夏を告げる風がレースのカーテンを静かに揺らしていた。
その風は、ふたりの心の距離をも、そっと近づけていくようだった。