パオン・モールで心は弾む! 和先生のウォーキング復活大作戦:ユリシア日記 2年生編 エピソード(第2学年編・12)

恋する渚の妄想全力アプローチ渚先生の日記第2学年

2025年7月31日(木)午後2時頃、チューエル淑女養成学院 職員室

夏の陽射しが職員室の窓を容赦なく灼き、扇風機が頼りなげに生ぬるい空気をかき回す音が響いていた。和先生は書類の山に囲まれ、額の汗をハンカチで拭う。クールビズのシャツはすでに湿り気を帯び、まるでサウナの中にいるようだ。

そこへ、体育科の渚先生が静かな足取りで近づいてくる。彼女の引き締まった身体は健康的だが、その笑顔は柔らかく、丁寧で女性らしい優しさが漂っている。

「和先生、お元気ですか? 随分汗をかいてらっしゃるようですが、大丈夫ですか?」

1枚目のイラスト:吹き出しの中に渚先生の心配そうな表情が描かれている

渚先生の声は明るくも気遣いに満ち、その瞳には心配の色と、本人だけが自覚しているほのかなドキドキが宿っていた。和先生はハンカチを握りしめ、彼女に向けてニヤッと笑ってみせる。

「はは、渚先生、いつも元気だね! いや、この暑さにやられてるだけさ。学院もそろそろ全室にエアコンを導入してほしいもんだよ、ほんと!」

しかし、その陽気な言葉とは裏腹に、彼の心の中では別の種類の汗が滲み出ていた。 (そういえば、渚先生とのウォーキング…1月に俺が言い出して始めたのに、5月からサボりっぱなしだ…)

今年の1月、和先生が「新年の目標でウォーキングを始めたいんだ」と気軽に提案し、渚先生が「素敵な目標です! 私もぜひお供いたしますね」と優しく応じてくれた。始まった当初は楽しかった。冬の澄んだ空気の中、湖畔を並んで歩き、渚先生がストレッチのコツを熱心に教えてくれたり、和先生が「学生時代から前屈だけは苦手でね。最高記録は+30cmなんだよ」という自虐ネタで彼女を笑わせたり。

だが、5月下旬の暑さでやる気は急降下。「来週は涼しくなるかな…」と先延ばしにし、6月は数回で挫折。そして7月の猛暑で、ウォーキングの習慣は完全に自然消滅していた。渚先生の「スポーツジムなら快適ですよ」という優しい提案にも、「うーん、ジムに通うのはちょっと気恥ずかしいかな…」と曖昧な返事をして、巧みに話を逸らしてきた。

(なんて情けないんだ、俺は!)

和先生は心の中で自分を叱咤する。渚先生の優しい笑顔、元教え子として純粋に応援してくれる気持ち、さらには参考にとわざわざ撮影してくれたストレッチ動画…。そんな彼女の真心を裏切るかのような自分の怠惰に、猛烈な反省の念が押し寄せる。

(渚先生は俺の健康を本気で気遣ってくれている。それなのに俺は…。こんなんじゃダメだ!)

その夜、自宅のソファーで冷えた麦茶を手に、和先生は考えを巡らせていた。 (外は危険なほどの暑さだ。しかし、運動しないとこのままズルズルと不健康な生活に戻ってしまう。何か、何か方法はないか…そうだ!)

突然、閃光のようなひらめきが脳裏を貫いた。 「新しくできた『パオン・ハッピーモール』! 南北に400メートル、3フロア構成の巨大な屋内施設だ。エアコン完備で涼しいし、多種多様な店を見て歩くだけでも楽しい。疲れたらカフェで休憩もできる! これだ!これ以上のアイディアはない!」

和先生は勢いよく立ち上がり、思わずガッツポーズを決めた。 (これなら渚先生にサボったお詫びもできるし、何より一緒に楽しめる! よし、明日、勇気を出して誘ってみよう!)

 

8月1日(金)、職員室

朝の職員室。和先生は少しドキドキしながら、渚先生の背中に声をかけた。いつもより声に熱がこもっているのを自覚する。

「渚先生、ちょっと話があるんだけど…いいかな?」

渚先生は体育の授業ノートを手に、柔らかな笑顔で振り返る。 「和先生? はい、もちろんです。どんなお話でしょうか? なんだか楽しそうな雰囲気ですけど…」

彼女の丁寧で優しい口調に、和先生は少し安堵しつつ、本題を切り出した。 「実は、ウォーキングのことでさ。1月に俺が言い出して始めたのに、5月からサボっちゃって…本当にごめん! 渚先生が送ってくれたストレッチ動画、すごく分かりやすくて励みになったのに、俺は本当に情けないよ…」

和先生はばつが悪そうに頭をかき、照れ笑いを浮かべる。渚先生は一瞬目を丸くしたが、すぐに温かい笑みを浮かべた。 「和先生、そんなふうに思っていてくださったなんて…嬉しいです。私、先生が健康でいてくださるなら、いつでも応援いたしますよ。サボってしまったことより、また始めようと思ってくださることが、何よりです」

その女神のような言葉に背中を押され、和先生は勢いよく続けた。 「それでね、最高の案を思いついたんだ! 『パオン・ハッピーモール』、南北400メートルもある巨大なモールでウォーキングしないか? 涼しいし、色々な店を見て回るのも楽しいし、疲れたらカフェで休憩もできる! 渚先生、こんな俺に、もう一度付き合ってくれるかな?」

和先生の目は少年のようにキラキラと輝いていた。その熱意に、渚先生は嬉しそうに軽く手を叩いた。 「まあ、なんて素晴らしいご提案でしょう! モールなら快適ですし、お買い物も楽しそうで、一石二鳥ですね。和先生、さすがです! ぜひ、お供させていただきます」

 

彼女の声は明るく、淑女らしい上品さが漂う。和先生は胸を撫で下ろし、ニヤリと笑った。 「よし、じゃあ明日13日の土曜、10時にパオン・ハッピーモールの入り口で! もし俺が遅刻したら、渚先生のスパルタストレッチ特訓コース、覚悟するよ!」 「ふふ、和先生が遅刻されたら、私が優しく、でも徹底的にご指導いたしますから、準備運動をしておいてくださいね」

二人の弾んだ笑い声が、夏の職員室に涼やかな風を運ぶようだった。

 

8月2日(土)、パオン・ハッピーモール

午前10時、パオン・ハッピーモールのガラス張りのエントランス。和先生はカジュアルなポロシャツとスニーカーで、スマートフォンの歩数計アプリを起動して待っていた。開業したばかりのこのモールは、南北に400メートル、3フロア構成の大型施設で、週末は多くの家族連れで賑わっている。

そこへ、渚先生が現れた。
「おはようございます、和先生! お待たせいたしました!」

彼女は白いスポーティーなTシャツに、動きやすそうな薄いグレーのショートパンツ姿。髪はポニーテールにまとめられ、軽やかに揺れている。その健康的な装いは体育教師である彼女らしかったが、体にフィットしたTシャツやショートパンツから伸びる脚線美は、否応なく周囲の視線を集めていた。

2枚目:ショッピングモールの入口で、ジョギング姿で和先生と話している渚先生
3枚目:さあ行きましょう!と、嬉しそうにウォーキングをはじめる渚先生

 

和先生は内心、どきりとしながらも温かく微笑んだ。
(渚先生らしい、健康的で素敵な格好だな。モールの中は涼しいから熱中症の心配もないだろう。しかし…なんと無防備なんだ。あのシャツは彼女のスタイルの良さを強調しすぎている。本人はウォーキングのことしか考えていないのだろうが、周りの男たちの視線が…どうにも気になってしまう)

「おはよう、渚先生! うん、今日は1万歩目指すぞ! …いや、ちょっと欲張りすぎかな?」
和先生はニッと笑い、アプリの画面を見せた。

「ふふ、1万歩、素敵な目標です! でも、無理せず楽しみながらまいりましょう。モールのマップ、1階はファッション、2階は雑貨、3階はフードコート…ワクワクしますね」

渚先生の明るい声に、和先生も気分が上がる。
(やはり、渚先生と一緒だと元気が出るな…)

二人はモールの中へ足を踏み入れた。心地よい冷房の風と、きらびやかなディスプレイに囲まれた通路を、軽快なテンポで歩き始める。

1階のファッションゾーンを歩いていると、渚先生がふと足を止めた。 「和先生、こちらの帽子はどうでしょう? きっとお似合いだと思います」 彼女が手に取ったのは、シックなネイビーのキャップだった。和先生は目を丸くする。 「私にかい? いや、この歳でキャップは…少し若作りが過ぎるんじゃないかな」 「年齢なんて関係ありませんよ。和先生はいつも若々しいですし、こういう帽子で少しおしゃれに…ね? 試着だけでもいかがですか?」

渚先生の悪戯っぽい笑顔に押され、和先生は渋々鏡の前に立つ。キャップを被ってみると…驚くほど違和感がない。 「いいじゃないですか。じゃあ、これいただこうかな!」 和先生はレジで購入すると、そのままかぶった。少し照れながらも、その笑顔は満更でもない様子だ。渚先生は目を細めて、愛おしそうに彼を見つめた。 「やっぱりお似合いです。なんだか嬉しいな…和先生が喜んでくださるなんて、私まで幸せな気持ちになります」

彼女の素直な笑顔に、和先生も自然と頬が緩んだ。 (渚先生がそんな笑顔で喜んでくれるなら、キャップの一つや二つ、安いものだ)

渚先生の心に、ある光景が蘇った。 (先生が、まるで少年のように帽子をかぶって喜んでいる。私の提案で、あの人があんなに無邪気な顔をしてくれるなんて…。昔、保健室で私を励ましてくれた時と同じ、優しい笑顔。あの頃は遠くから見つめることしかできなかったあの笑顔が、今、私だけに向けられている。その事実に、心臓がトクン、と大きく音を立てた)

二人は微笑み合い、再び歩き出した。その時だった。

「あら、和先生に渚先生。奇遇ですわね」 聞き覚えのある上品な声。振り返ると、そこには生徒である茉里絵の母親が立っていた。 「橘さんのお母様。こんにちは」 二人は咄嗟に教師の顔に戻り、深く頭を下げた。 「まあ、お二人でいらっしゃるなんて。休日までご一緒だなんて、本当に仲がよろしいのですね」 母親の言葉に悪気はないのだろうが、その視線はどこか探るようで、二人の間に微かな緊張が走った。 「ええ、まあ…」和先生が言葉を探す。「実は、来月に計画している学院のウォーキングイベントの下見を兼ねて、コースの安全確認をしていたところなんです」 「まあ、それはご苦労様です。渚先生もご一緒とは、体育科の先生がいらっしゃると心強いですわね」 「はい。生徒たちの安全が第一ですから」 渚先生も完璧な笑顔で応じる。数分間の当たり障りのない会話の後、母親は優雅に一礼して去っていった。

後に残された二人の間に、少し気まずい沈黙が流れる。和先生が、新しいキャップを少し照れくさそうに触りながら、その沈黙を破った。 「…やれやれ、休日にまで先生稼業とはな」 そのユーモラスな言い方に、渚先生は思わず吹き出した。 「ふふっ、そうですね。でも、なんだかスリリングで楽しかったです」 「そうか?」 「はい。和先生と私が、秘密を共有している共犯者みたいで」 渚先生の悪戯っぽいウインクに、今度は和先生がどきりとする番だった。気まずい空気を一瞬で楽しさに変えてしまう彼女の強さと明るさに、彼は改めて感心した。

歩数計は2500歩を超え、二人は2階の雑貨ゾーンへとエスカレーターを上がる。渚先生が文房具コーナーで目を輝かせた。 「ユリシアさん、茉里絵さん、立野さん、柚羽さんに、こんな可愛いノートをプレゼントしたら喜ばれそうですね。選んでみましょうか?」 和先生は微笑む。 (生徒たちのことを自然と考えてくれる渚先生は、本当に優しいな。昔の病弱だった彼女からは想像もつかないほどの成長だ…) 「いいアイデアだね。彼女たち、きっと喜ぶだろう。俺も一緒に選んでみるよ」

二人はカラフルなノートやペンを手に取り、和気あいあいと相談を始めた。渚先生が「立野さんにはこのシックなデザインはいかがでしょう?」と提案し、和先生が「柚羽には実用的なものがいいかもしれないな」と笑う。

その時、和先生はふと気づいた。先ほどの母親との遭遇で、周囲の視線をより意識するようになったのだ。渚先生の白いブラウスは薄手で、彼女の美しいシルエットを際立たせている。それが周囲の男性客の視線を惹きつけていることに、彼は内心穏やかではいられなかった。 (いや、これは…渚先生の無自覚な魅力が問題なのだが…。教師として、同僚として、そして一人の男として、彼女を守ってあげたい)

「渚先生、少し待っていてくれるか。ちょっと見てきたい店があるんだ」 和先生は近くの衣料品店へ向かうと、一枚の薄手のカーディガンを手に取った。色は、彼女の白い肌によく映えそうなワインレッド。軽いニット素材で動きやすさも重視されている。 「渚先生、これ、さっきの帽子のお礼だ。モール内は涼しいし、一枚羽織っていたほうが、体が冷えなくていいかと思って…どうだろうか?」 「まあ、和先生…! こんな素敵なカーディガンを…ありがとうございます。お気遣いが、本当に嬉しくて…」 渚先生は照れながらも、そのカーディガンを優雅に羽織り、鏡で姿を確認した。軽やかな素材は動きを妨げず、上品な色合いが彼女の魅力を一層引き立てている。和先生は安堵した。 (これで安心だ。渚先生も喜んでくれて、本当によかった)

渚先生の心には、温かい想いが広がっていた。 (先生が私を気遣ってくださっている…。その優しさに、胸の奥がじんわりと温かくなる…)

 

3階のフードコート、休憩タイム

フードコートで、抹茶パフェとチョコレートサンデーを前に、二人はテーブルに腰を下ろした。歩数計は7000歩を記録している。和先生がパフェをスプーンでつつきながら、改めて切り出した。
「渚先生、今日は本当にありがとう! 1月に俺が言い出して、結局サボってしまっていたウォーキングなのに…こうしてまた一緒に歩けて、すごく楽しかったよ」

4枚目:和先生と一緒に、フードコートでチョコレートサンデーを美味しそうに食べる渚先生

渚先生はサンデーを味わいながら、柔らかく微笑む。
「和先生、お詫びなんて必要ありません。私、こうして先生と一緒に過ごせる時間そのものが、幸せなんです。モールでのウォーキング、本当に素敵なアイディアでした! また来週も、ぜひお願いしますね」

彼女の声は明るく、優しさに満ちていた。その時、和先生の視線は、ふと隣のテーブルではしゃぐ若い家族に注がれていた。渚先生とそう変わらない年齢に見える母親が、小さな子供をあやしている。その微笑ましい光景に、彼の胸にちくりとした、それでいて無視できない痛みが走った。

(自分はもう50代…。渚が望むであろう未来を、俺は本当に与えてやれるのだろうか。子供、そしてその先の長い人生…。いずれは自分が先に老い、彼女に介護の負担をかけることになる。彼女の貴重な時間を、俺が縛り付けてしまっていいのだろうか…)

「和先生、どうかなさいましたか?」
彼の表情からふっと笑みが消えたことに気づいた渚先生が、心配そうに顔を覗き込む。
「…いや、何でもないんだ」

和先生は、胸の内の葛藤を隠すように、穏やかな笑顔を作ろうとした。しかし、渚先生は彼のその笑顔が、少しだけ寂しげに揺らいだのを見逃さなかった。彼女は以前から、和先生が時折見せるこの表情の理由に、薄々気づいていた。

渚先生の心に、過去の記憶がよぎった。
(先生、時々、そういう遠くを見るようなお顔をされる。以前、年齢のことを少し気にされていたことがあった…。きっと、今も…)

彼女はスプーンをそっと置くと、まっすぐに和先生の瞳を見つめた。
「いいえ、何でもなくはありません。先生は、嘘をおつきになるのがあまりお上手ではありませんね」
その優しいながらも芯のある言葉に、和先生は少し驚いたように目を見開いた。

「…もしかして、また年のこと、気にされてますか?」

核心を突く問いかけに、和先生は言葉を失った。彼女の洞察力には、いつも敵わない。彼は観念したように、小さくため息をついた。
「…敵わないな、渚先生には」
彼は少し照れたようにそう言うと、観念したように正直な気持ちを少しだけ打ち明けた。
「いや…あの家族を見ていたら、ふと、な。俺はもう若くないんだと、改めて感じてしまって。君のような若い人に、俺がこうして時間を付き合わせるのは…少し、申し訳ない気もするんだ」

その言葉は、渚先生がずっと聞きたくなかった、そして同時に、いつか向き合わなければならないと思っていた言葉だった。彼女はテーブルの上で、そっと和先生の手に自分の手を重ねた。

「先生が、ご自身のことをどう思われていても、私が先生と一緒に過ごしたいという気持ちは、決して変わりません」

彼女の声は、震えていなかった。そこには、長年秘めてきた想いの強さと、一人の大人としての覚悟があった。

「先生といる時間が、私にとって何よりも大切で、幸せなんです。だから…申し訳ないなんて、絶対に思わないでください。私が、先生の隣にいたいんです」

和先生は、重ねられた手の温かさと、彼女の真剣な眼差しに、胸が熱くなるのを感じた。自分の抱える不安や罪悪感を、彼女はこうして真正面から受け止めてくれる。その強さと優しさに、救われるような思いだった。彼は何も言わず、ただ彼女の手をそっと握り返した。

「…ありがとう、渚」

その一言に、全ての感情が込められていた。しばらくの沈黙の後、和先生は照れくさそうに、わざと明るい声を作った。
「さて!しんみりするのはここまでだ。次は、ユリシアさんや茉里絵さんたちも誘ってみるか? いや、あの子たちが来たら、服屋から一歩も動けなくなりそうだけどな!」

その話題転換に込められた彼の優しさを感じ取り、渚先生も笑顔で応じた。
「ふふ、ユリシアさん、きっとキラキラしたお店で大はしゃぎしますね! 賑やかで楽しそうですわ。どうでしょう、和先生?」

二人は顔を見合わせて笑う。渚先生の心には、先ほどよりもずっと強く、温かい想いが広がっていた。
(先生とこうして笑い合える時間…私の宝物です。先生が不安に思うなら、その不安ごと、私が支えてみせる。もっと、もっと先生のそばにいたいな…)

 

エピローグとさらなる散策

モールを後にする頃、夕陽がガラス張りのエントランスをオレンジ色に染めていた。和先生は歩数計の8500歩に満足の笑みを浮かべる。渚先生はワインレッドのカーディガンを羽織り、軽くストレッチを始めた。 「和先生、来週もパオン・モールでのウォーキング、約束ですよ! 次は、私が特別なコースを提案します。雑貨ゾーンで、先生に似合う素敵なペン、見つけましょうね」 「ペンまで!? 渚先生、俺をどんどんおしゃれにする気だな! でも、楽しそうだから大歓迎だよ」 「ふふ、健康も、おしゃれも、どちらも大切です! 私、ずっと応援いたしますから」

二人の笑い声が、夏の夕暮れに心地よく響く。 帰り道、和先生が「せっかくだから、もう一回りしてみないか?」と提案した。渚先生は「素敵ですわね! 少しだけなら、私もお付き合いします」と同意する。二人は再びモールへ戻り、1階の美しい装飾を眺めたり、2階で小さなアクセサリー店を覗いたりした。和先生は「これ、渚先生に似合いそうだ」と花のモチーフのネックレスを手に取るが、照れくささから「いや、冗談だよ!」と笑って誤魔化す。渚先生は「ふふ、ありがとうございます…少しドキッとしてしまいました」と頬を染め、二人はまた笑い合った。

歩数計はついに9000歩に達し、心地よい疲労感と共にモールを後にした。

和先生の心には、渚先生の優しい笑顔と応援の言葉が深く刻まれた。
(このウォーキング、ちゃんと続けよう。渚のためにも…そして、俺自身の心のためにも)

 

渚先生のエピローグ(モノローグ)

渚先生の心にもまた、温かく、そして今までとは違う種類の確かな想いが残っていた。

(先生と過ごした、幸せな一日。まだ手のひらに、あの人の不器用で、優しい温かさが残っているみたい…)

彼女は自宅のソファに座り、窓の外の夜景を見つめながら、今日の出来事を反芻していた。楽しかった帽子のやり取り、生徒たちのためのノート選び、そして、フードコートでの一幕。

(フードコートで見せた、先生のあの寂しげな横顔。そして、勇気を出して尋ねた、私たちの「年の差」という現実。あれは、きっと私たちにとっての最初の試練だったんだ)

胸が少しだけ痛む。でも、それはもう不安や悲しみだけの痛みではなかった。

(でも、先生は逃げずに、少しだけ本音を話してくれた。そして、私も自分の本当の気持ちを伝えられた。先生が抱える不安も、世間の目も、きっとこれから何度も私たちの前に壁として現れる。でも、今日のことで分かった。二人でなら、きっと乗り越えていける)

彼女は、そっと自分の手を握りしめた。

(ただ好き、と憧れていただけの学生の頃の私じゃない。先生の弱さも、痛みも、そのすべてをまとめて支えたい。そう心から願う、今の私がいる。だから、もう迷わない)

渚先生の瞳には、強い光が宿っていた。それは、長年の恋が、確かな愛へと変わった瞬間の輝きだった。

(来週のウォーキングが、もう待ち遠しいな…)