12月2日(火)——17歳
今日は私の誕生日だ。
論理的に考えれば、誕生日とは単なる「地球が太陽の周りを一周した記念日」に過ぎない。特別な意味を持たせるのは、人間の感情論であり、非合理的な慣習だ。
……そう、わかっている。わかっているのに。
今朝、鏡の前で髪を整えながら、私は迷った。今日は茶髪のままでいくべきか、それとも——ピンクに染めるべきか。
結局、1dayカラーに手が伸びた。
非合理的だ。誕生日だからといって、髪の色を変える論理的根拠はどこにもない。なのに、私の手は勝手に動いていた。
……もしかしたら、なごみ先生が気づいてくれるかもしれない、なんて。
そんな期待を抱いている自分が、本当に腹立たしい。
最近の私は、明らかにおかしい。
あの日——簿記の結果が返ってきた日から、私の中の何かが狂い始めた。
96点。
想定通りの結果だった。私は完璧に近い成績を収めた。なのに、なごみ先生は——
「立野さん、よく頑張ったね」
72点の彼女を、私の目の前で褒めた。
……意味がわからなかった。
効率を無視してアイドル活動に現を抜かし、ギリギリで合格した人間と、最初から完璧を目指して96点を取った私。論理的に考えれば、評価されるべきは私のはずだ。
なのに、先生の目は彼女を見ていた。ユリシアさんを見ていた。私ではなく。
あの廊下で、私は初めて声を荒らげた。
「なぜ、非効率な努力を、論理的な結果よりも優先するんですか……!?」
先生は何も答えなかった。ただ、静かに私を見つめていた。
その瞬間、私の「論理の鎧」は、粉々に砕け散った。
この感情を、私は何と呼べばいいのだろう。
嫉妬? 苛立ち? 悲しみ?
どれも当てはまるようで、どれも違う気がする。
私は今まで、感情に名前をつける必要がなかった。論理で処理できないものは、「無駄なもの」として切り捨ててきたから。
でも、今の私には——切り捨てられない。
この胸の痛みを。この息苦しさを。
先生のことを考えるだけで、心拍数が上がるこの現象を。
だから、私は曲を作った。
論理では説明できないこの感情を、言葉と音に変換してみた。プログラミングでバグを特定するように、自分の中の「エラー」を可視化しようとした。
タイトルは「96点のバグ」。
96点という「完璧に近い結果」が、私にとっては「バグ(エラー)」になってしまった皮肉。論理で生きてきた私が、感情という「バグ」に飲み込まれていく様子。
全部、詰め込んだ。
「ピンクのかみは SOSの いろ」
この一節を書いた時、自分でも驚いた。私は無意識に、助けを求めていたのかもしれない。
先生に、気づいてほしかったのかもしれない。
……こんなことを書いている自分が、本当に信じられない。
17歳の誕生日に、私は何をしているのだろう。
論理的に考えれば、こんな日記は削除すべきだ。誰かに見られたら、私の「完璧な姫宮綾香」というイメージが崩壊する。
でも——
消せない。
この感情を、なかったことにしたくない。
先生。
あなたは今日が私の誕生日だと、知っていますか。
……いえ、知らなくていいんです。
ただ、もし——もし、この曲があなたの耳に届くことがあったなら。
私の「バグ」に、少しだけ気づいてくれたら。
それだけで、この非合理的な感情も、報われる気がするから。
追記:
今日、教室でユリシアさんが「綾香さん、お誕生日おめでとう!」と声をかけてきた。
……なぜ彼女が私の誕生日を知っているのかは不明だが、悪い気はしなかった。
これも、バグの一種だろうか。
姫宮綾香
