三つ子バニーズをめぐる戦い

トゥインクル☆バニーダンス

第1章:予期せぬ三角関係

土曜日の朝、渚先生は慎重に選んだピンクのブラウスとスカートに身を包み、最後のチェックを鏡の前で行っていた。今日はずっと待ち望んでいた日—和先生との二人きりのお出かけ。『トゥインクル☆バニーダンス』のグッズを買いに行くという名目だが、二人の距離を縮めるチャンスだと思っていた。

「よし、これなら普段の体育教師の印象と違って、女性らしく見えるはず…」

渚先生は練習のしすぎで少し硬くなった手で、髪を整えながら小さく呟いた。頬には薄くチークを塗り、唇はほんのりとグロスで輝いている。

同じ時間、和先生のマンションでは、ユリシアが急いで身支度を整えていた。

「おにいたん♡待っててね!今すぐ行くから!」

先日、和先生のアオちゃん推しを知り、さらに渚先生との約束を聞いた瞬間、彼女の心には警報が鳴り響いた。おにいたんと渚先生が二人きりで出かけるなんて—そんなことは絶対に許せない。だから自分も行くと言い出したのだ。

「おにいたん♡は、私だけの”おにいたん”なんだから…」

ユリシアはそう呟きながら、かわいらしい水色のワンピースに身を包んだ。おにいたんの好みのスタイルだ。


アニメイロ、その大きなガラス張りの入り口前。渚先生は指定された時間より15分早く到着し、少し離れた場所から店を見つめていた。心臓の鼓動が早い—これは運動による鼓動とは全く違う種類の高鳴りだった。

「渚先生、おはよう!早いね」

振り返ると、そこには和先生の姿。いつもの穏やかな微笑みを浮かべている。渚先生の心が喜びで満たされた瞬間—

「おにいたん♡、待ったぁ!」

明るい声が背後から響き、ユリシアが駆け寄ってきた。

渚先生の表情が一瞬で凍りついた。「え…?」

「ユリシアも一緒に行きたいって言うから」和先生は何気なく説明した。「三人で楽しめると思って」

「そ、そうだったんですね…」渚先生は必死に笑顔を作る。「ユリシアさん、おはようございます」

内心では「なぜ…」と叫びながらも、教師としての品格を保とうと努めた。計画していた二人きりの時間は、もうない。

「おはようございます、渚先生!」ユリシアは無邪気に応える。「アニメグッズ、楽しみですね!」

「あら、ユリシアさんも一緒だったんですね」渚先生は冷静さを取り戻し、微笑んだ。「おにいさんと仲睦まじくて羨ましいですわ」

これはただの社交辞令のつもりだった。しかし、ユリシアの反応は予想外だった。

「へへへっ、ありがとうございます!仲睦まじいだって、おにいたん♡♡」

そう言いながらユリシアは和先生の腕にぴったりとしがみついた。その仕草はあまりにも自然で、まるで当然の権利があるかのようだった。

渚先生の胸に、小さな痛みが走る。

(私も…そうできたら…)

ふと、昨夜アニメで見た場面が脳裏に浮かんだ。三つ子バニーズの一人、アオが年上の男性に恋をして「お兄様♡」と呼ぶシーン。アオの大胆さと可愛らしさに、和先生が目を輝かせていたことを思い出した。

そして渚先生は、決断した。

「じゃあお兄様♡早くお店の中に入りましょ♡♡」

その声は、いつもの渚先生のものとは思えないほど甘く、柔らかかった。

和先生は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに「そうだね」と微笑んだ。

一方、ユリシアは足が地面に凍りついたかのように動けなくなった。瞳が見る見る大きくなり、口が小さな「お」の形に開いたまま。

彼女の頭の中で、一つの事実が爆発した。

(渚先生が…おにいたん♡を…お兄様って呼んだ…?)

第2章:お店の中で高まる緊張

アニメイロの中は、週末の朝とは思えないほどの活気にあふれていた。『トゥインクル☆バニーダンス』の新グッズコーナーは特に混雑しており、三つ子バニーズのポスターが大きく掲げられていた。

和先生はその光景に子供のように目を輝かせていた。「わあ、すごいね。やっぱり人気があるんだな」

「ええ、お兄様♡」渚先生は意図的にその言葉を強調した。「特にアオちゃんが人気みたいですね」

「あ、そういえば昨日の放送、見ましたか?」渚先生は自然な流れで会話を続ける。「アオちゃんが『お兄様、私のためにそこまでしてくれるなんて…』って言うシーンが素敵でしたよね」

和先生は嬉しそうに頷いた。「ああ、あのシーン良かったね!アオの恥じらいと喜びが絶妙で…」

その会話を聞きながら、ユリシアの内心は混乱と不安で渦巻いていた。

(どうして渚先生が…おにいたん♡と、アニメの話で盛り上がってるの?しかも”お兄様”って…)

彼女はこれまで一度も、自分以外の人が彼をそんな風に呼ぶのを聞いたことがなかった。それは自分だけの特権、二人だけの絆の証だと思っていた。それが今、目の前で崩れようとしている。

ユリシアは一瞬のうちに決断した。負けるわけにはいかない。

「おにいたん♡」彼女は急に声を上げた。「あっ、私も昨日の見たよ!あのアオって子、私に似てるって言ってたよね?」

和先生は少し驚いたように振り返った。「え?ああ、そうだね…確かに少し雰囲気が…」

「えへへ♡」ユリシアは得意げに微笑む。「だからおにいたん♡は、私のこと見るたびにアオちゃんを思い出すんだよね?だからそんなに好きなんだよね?」

渚先生の表情が微妙に変化した。ほんの一瞬、目が細くなり、唇が引き締まったように見えた。

「あら、そうだったんですか」渚先生は冷静さを装いながらも、声のトーンは少し鋭くなっていた。「でも、アオちゃんといえば、体育が得意な運動少女ですよね。あのエピソード5では見事なバック転を披露していましたし」

渚先生は自然な動きで腕を伸ばし、トートバッグを持ち上げる仕草をした。その動きによって、鍛え上げられた筋肉のラインが僅かに浮かび上がる。

「運動能力といい、私に少し似ているかもしれませんね、お兄様♡」

ユリシアの目が見る見るうちに細くなった。遠くから見れば、まるで二人の間に目に見えない火花が散っているようだった。

和先生は何も気づいていない様子で、商品棚を覗き込んでいた。「あ、アオの等身大タペストリーがあるぞ!」

「私が取ります!」 「取ってきますね、お兄様♡!」

二人の声が完全に重なった。

二人は一瞬互いを見つめ、そして一斉にタペストリーの方へ手を伸ばした。

第3章:激化する女の闘い

「あら、ユリシアさん」渚先生は優雅な微笑みを浮かべながら、タペストリーをしっかりと手に握っていた。「お譲りしますわ」

その言葉とは裏腹に、彼女の手は少しも緩んでいない。

「いいえ、渚先生こそ」ユリシアも負けじと笑顔を返す。「どうぞお先にどうぞ」

しかし彼女もまた、タペストリーを手放す気配はなかった。

和先生はそんな二人の様子に気づかず、別の商品を手に取っていた。「これも良いな…三つ子のアクリルスタンドセット…」

渚先生はユリシアに聞こえないよう、小さな声で囁いた。「ユリシアさん、和先生は今日、私と一緒に来る約束だったんですよ。大人の関係って分かりますか?」

ユリシアは一瞬ひるんだが、すぐに反撃に出た。「ふーん?でも私とおにいたん♡は家族みたいなものだし、毎日一緒にいるんだよ?」

二人の間に流れる緊張感はますます高まっていた。そんな中、運命の神が新たな燃料を投下した。

「あの、すみません」

振り返ると、店員が立っていた。

「三つ子のグッズをお探しでしたら、奥のイベントスペースで声優さんのサイン会があるんですが…」

「サイン会!?」和先生の顔が明るくなった。「アオの声優さんも来てるの?」

「はい、三人とも揃っています。ただ、整理券が必要で…」

店員の言葉が終わる前に、和先生は既に奥へと歩き出していた。「行ってみよう!」

取り残された二人は、まだタペストリーの取り合いを続けていた。

「行きましょうか、ユリシアさん。和先生を待たせるわけにはいきませんもの」渚先生は穏やかな声で言った。

「そうだね、渚先生。おにいたん♡を一人にするわけにはいかないよね」

タペストリーは渚先生の手に残った。しかし、これで勝負が決したわけではなかった。

イベントスペースには長い列ができていた。整理券は既に配布終了の札が掲げられている。

「残念だな」和先生は肩を落とした。「次の機会にしようか」

「お兄様♡」渚先生が急に声をかけた。「私、アオちゃんの声優さんと少し面識があるんです。体育の特別講師で学院に来てくださったことがあって…」

「え?本当?」和先生の目が輝いた。

「はい、少しだけお話できるかもしれません」

ユリシアの顔から血の気が引いた。渚先生がこんな切り札を持っているとは!

(まさか…渚先生、そこまで準備してたの…?)

しかし、ユリシアも負けてはいなかった。

「あのね、おにいたん♡」彼女は急に明るい声で言った。「私ね、実はアオちゃんのコスプレ、作ってもらったんだ!まりちゃんに特別に!まだ誰にも見せてないの」

渚先生の表情が凍りついた。ユリシアはそれを見て内心ほくそ笑む。実は本当の話だったのだ。

「本当かい?」和先生の声には明らかな興奮が含まれていた。

「うん!今度着てみせるね」ユリシアは得意気に胸を張った。

その瞬間、渚先生の頭の中でアイデアが閃いた。

「あら、それなら私も…」彼女は自信に満ちた声で言った。「実は『トゥインクル☆バニーダンス』の公式スポンサーである体操協会から、特別なバニースーツを頂いているんです。本物の競技用の…」

「え?マジで?」和先生の反応は、もはや冷静さを欠いていた。

ユリシアと渚先生は、互いに勝ち誇るような、そして警戒するような視線を交わした。

第4章:予想外の展開と決着

サイン会を諦めた三人は、結局それぞれ気に入ったグッズを手に入れて店を出た。和先生はアオの特大タペストリーを含む大量の戦利品を抱え、満足げな表情を浮かべている。

「お昼でも食べていきますか?」渚先生が自然な流れで提案した。

「いいね」和先生は頷いた。「近くに良いカフェがあるんだ。アニメとコラボしてるらしくて…」

「おにいたん♡、その前に…」ユリシアが急に声を上げた。「あのね、ちょっと見て欲しいものがあるの。近くの公園で…」

「公園?」

ユリシアはスマートフォンを取り出し、渚先生には見えないようにして和先生に画面を見せた。和先生の顔が一気に赤くなる。

「これは…」

「まりちゃんが送ってくれたの。私のバニー衣装の試着写真…」ユリシアは小声で説明した。

渚先生には何が起きているのか分からなかったが、和先生の反応から察するに、相当なインパクトがあったようだった。

(負けるわけにはいかない…)

渚先生も自分のスマートフォンを取り出した。

「お兄様♡」彼女は自信に満ちた声で言った。「実は私も…お見せしたいものが…」

そう言って、和先生だけに見えるように画面を向けた。そこには渚先生自身が公式バニースーツで優雅にポーズを決めている写真が映っていた。完璧なスタイルと美しい筋肉のラインが強調された一枚だった。

和先生の顔がさらに赤くなる。「これは…すごいな…」

ユリシアと渚先生は、互いに相手が何を見せたのか知らないまま、和先生の反応だけを見て勝敗を測ろうとしていた。

そして—

「みなさーん!」

明るい声が遠くから聞こえてきた。振り返ると、そこには茉里絵がエレガントに手を振りながら近づいてきた。

「まりちゃん?」ユリシアは驚いた声を上げた。

「あら、皆さんこんなところで。偶然ですわね」茉里絵は上品に微笑んだ。

(偶然なわけない…)ユリシアと渚先生は同時に思った。

「ちょうど良かったですわ」茉里絵は続けた。「実は今日、雫さんのライブがあるの。その新曲が『トゥインクル☆バニーダンス』のテーマを歌うという噂で…皆さんもいかがかしら?」

「雫のライブ?」和先生の興味が一気に引かれた様子だった。

茉里絵はユリシアと渚先生に向かって、知らなそうな表情で説明を続けた。「雫さん、実はあのアニメの大ファンなんですのよ。特にアオちゃんが大のお気に入りで…」

「えっ!?」ユリシアと渚先生の声が重なった。

茉里絵の表情には、何かを企んでいるような微妙な笑みが浮かんでいた。「ご存知でしたか?雫さん、実は声優さんとも親交があって…」

(まさか…雫さんまで…)渚先生の頭の中で、新たな脅威のアラームが鳴り響いた。

「行ってみようか!」和先生は予想外の展開に興奮した様子だった。「雫が『トゥインクル☆バニーダンス』のファンだなんて知らなかった。話が合いそうだな」

その言葉に、ユリシアと渚先生は互いに視線を交わした。それは一瞬の間だったが、そこには奇妙な連帯感が宿っていた。

(雫…まさかの強敵…)

「和先生」渚先生は決意を固めたように声を上げた。「行きましょう。雫さんのライブ、応援したいです」

「そうだね!」ユリシアも負けじと頷いた。「雫ちゃんを応援しなきゃ!」

茉里絵は二人の反応を見て、満足げに微笑んだ。「ではご一緒しましょうか。ちなみに…」

彼女は小声で付け加えた。「今日のライブ、雫さんはバニー風衣装で登場するという噂ですわ…」

その瞬間、ユリシアと渚先生の間には、静かな同盟が結ばれた。目に見えない糸で結ばれたような感覚。今日の敵は、もはやお互いではなく—

(雫…!)

二人は同時に思った。そして和先生の両側に並び、彼を中心に歩き始めた。

「おにいたん♡、行こっか!」 「お兄様♡、ご一緒しましょう」

和先生は何も知らない様子で、二人のいる真ん中で嬉しそうに笑っていた。

そして茉里絵は少し後ろから、その光景を見て満足げに微笑んでいた。彼女の計画は完璧に進行していた。全ては自分の最終的な勝利のための布石—そう考えながら。

エピローグ:新たな戦いの予感

雫のライブ会場へと向かう四人。ユリシアと渚先生の間には微妙な緊張と妙な連帯感が混在していた。

「ねぇ、渚先生」ユリシアは小声で話しかけた。「アオちゃんのこと、本当に好きなの?」

渚先生は少し困ったように笑った。「まあ…和先生が喜ぶから…」

二人は少し顔を見合わせて、小さく笑った。

「でも、負けないからね」ユリシアは真剣な表情で付け加えた。

「ええ、もちろんです」渚先生も同じく真剣に返した。

前を歩く和先生と茉里絵には聞こえない距離を保ちながら、二人はつかの間の共犯関係を楽しんでいた。

ライブ会場に到着すると、そこには既に多くのファンが集まっていた。そして—

「おや、雫の写真だ」和先生が指さした先には、衝撃的な光景が広がっていた。

雫の等身大パネルは、完璧なバニースーツ姿で微笑んでいた。そのスタイルの良さと表情の可愛らしさは、まさにアニメから飛び出してきたよう。そして驚くべきことに、その頭上には「アオちゃん大好き♡」と大きな字で書かれていた。

「すごい…」和先生の目が輝いていた。「雫、こんなにアニメ好きだったんだ…」

その光景を見た瞬間、ユリシアと渚先生の表情が硬直した。

「まりちゃん…」ユリシアは震える声で尋ねた。「これって…」

「ええ、雫さん、実はアオちゃんのコスプレで特別ライブをするんですの」茉里絵は何食わぬ顔で説明した。「プロのアイドルですから、こういう企画も上手なんですのよ」

渚先生は深呼吸をしてから、静かに言った。「これは…相当な強敵ですね」

ユリシアも小さく頷いた。「うん…でも…」

彼女たちの視線が再び交錯する。そこには新たな決意が宿っていた。

「負けないよね?」ユリシアが小声で言った。

「ええ、絶対に」渚先生も強く頷いた。

和先生の心を巡る戦いは、新たなステージへと移行しようとしていた。

一方、茉里絵はそんな二人の後ろで静かに微笑んでいた。彼女自身の秘密の計画—和先生へのアプローチは、裏で着々と進行中だった。

そしてライブが始まり、バニー姿の雫が登場した瞬間、会場は熱狂に包まれた。和先生の目は輝き、ユリシアと渚先生の決意は固まった。

これはまだ序章に過ぎない。三つ子バニーズをめぐる彼女たちの戦いは、まだ始まったばかりだった…。