午後の陽射しが柔らかく差し込む運動場の一角。
赤いジャージを着た渚先生は、芝生の上で小さくしゃがみ込み、両手で頬を包むようにして、ぼんやりと運動場を眺めていた。どこか無防備な表情で息を吐くその姿は、職員室で見せるいつもの穏やかさとは少し違っていた。
「渚先生」
和先生が声をかける。渚先生はびくりと肩を震わせ、慌てて腕を下ろした。頰にうっすらと赤みが広がり、耳まで染まっている。
「……和先生」
少し照れくさそうに微笑みながら、彼女は隣の芝生を軽く叩いた。
「座りませんか? ここ、気持ちいいですよ」
和先生は迷わずその隣に腰を下ろした。
「生徒たちと走りすぎて、ちょっと疲れちゃいました」
渚先生は小さく笑いながら、自分の頰に手を当てた。ジャージの袖が少しめくれ、陽の光に白い手首が照らされる。
「……こういう渚先生も、好きですよ」
和先生が静かに言うと、渚先生の動きが一瞬止まった。彼女は俯き加減に、けれど口元を緩めて小さく微笑んだ。
「ずるいです……」
声は少しだけ甘く、風に溶けるように消えていった。
しばらく、ふたりとも何も言わなかった。遠くで生徒たちの声がして、風が草を揺らす。渚先生の長い髪が、そっと動いた。
「ねえ、和先生」
「はい」
「こういう時間って……たまにでいいので、これからも」
渚先生は最後まで言わなかった。ただ、少しだけ和先生の方に体を傾けて、また空を見上げた。
和先生は何も答えなかった。
ただ、静かに、彼女の隣にいた。
それで、十分だった。
