第1章:学校でのハロウィンイベント(和先生の視点)
ハロウィン当日。
学院は朝から、生徒たちの仮装で賑わっていた。
魔女、吸血鬼、猫、天使…色とりどりの衣装に身を包んだ生徒たちが、廊下を楽しそうに歩いている。
「和先生~!見て見て~!」
廊下の角から、聞き慣れた声が響いてきた。
振り向くと、そこにはオレンジと黒の魔女っ子衣装を着た、ユリシアの姿があった。
「先生!どうかな?似合ってる?」
ユリシアは、満面の笑みで、くるりとその場で回ってみせる。
ふわりと広がるスカート。オレンジのリボン。そして、少し大きめのとんがり帽子。
(…ああ、本当に可愛らしいな)
「ああ、よく似合ってるよ、ユリシア」
そう言って、私は自然と彼女の頭を撫でた。
「えへへ♡ やったぁ~!」
ユリシアは、嬉しそうに頬を染める。
その姿は、幼い頃から見てきた、あの無邪気な笑顔そのものだった。
(ユリシアは、本当に…俺の自慢の娘だ)
そう。娘だ。
去年の10月、ユリシアが「おにいたんのお嫁さんになりたい!」と涙ながらに訴えてきた時、私は…正直、困惑した。
血は繋がっていないが、幼い頃から娘のように大切に育ててきたユリシア。
彼女が、一人で生きていく不安を感じていることは、痛いほど分かっていた。
だから、私は彼女に言った。
「ユリシア、俺たちは、もう家族だ。これからも、ずっと一緒だよ」
そして、形式的に「婚約」という形をとることで、彼女を安心させようとした。
(でも…ユリシアは、あれを「本当の婚約」だと思っているのかもしれない)
そのことに、私はずっと気づいていた。
でも、どう伝えればいいのか、分からなかった。
「先生、今日は一日、ユリシアの隣にいてね♡」
ユリシアが、私の腕にぎゅっとしがみつく。
「ああ、でも、他の生徒たちの対応もあるからな。ずっとは無理だよ」
「むぅ~!ケチ~!」
ユリシアは、頬を膨らませる。
(…やはり、ちゃんと話し合わないといけないな。でも、今日は…)
「和先生」
背後から、凛とした声が響いた。
振り向くと、そこには黒いドレスに身を包んだ渚先生の姿があった。
クイーン魔女の衣装。大人っぽく、そして品がある。
「渚先生…似合ってますね」
「あ、ありがとうございます…///」
渚先生は、少し頬を赤らめる。
そして、その視線は、私の腕にしがみついているユリシアへと向けられた。
(…まずい)
「あ、あの、和先生。今日のイベントの件で、少しお話が…」
「あっ!渚先生!先生は今、ユリシアと一緒なんだから!」
ユリシアが、私の腕をさらに強く抱きしめる。
「ユリシアさん…先生は、私たち教師の仕事もあるんですよ」
渚先生の声は、穏やかだが、どこか張りつめたものを感じる。
(…これは…)
「ユリシア、渚先生の話を聞こう。大事な仕事の話かもしれないだろ?」
「むぅ~…分かったもん…」
ユリシアは、不満そうに私の腕を離した。
「ありがとうございます、和先生」
渚先生は、微笑む。
でも、その目は笑っていなかった。
(…渚先生も、ユリシアも、最近…)
私は、二人の様子に、ある種の緊張感を感じていた。
「先生」
さらに、別の声が響いた。
振り向くと、そこには包帯を完璧に巻いたミイラ姿の姫宮綾香が立っていた。
「姫宮…その衣装は…」
「フィボナッチ数列に基づいた、完璧なミイラです。先生、私の『完璧』を、今度こそ、ご覧ください」
姫宮は、真っ直ぐに私を見つめた。
その目には、強い意志と、そして…何か、懇願するようなものがあった。
(…金曜日のことを、まだ引きずっているのか)
「姫宮、素晴らしい衣装だよ。よく考えられている」
「…ありがとうございます」
姫宮は、少しだけ、表情を和らげた。
でも、その後ろから。
「あんた!…じゃなくて、先生!」
キツネ耳をつけた雫が、駆け寄ってきた。
「雫も、仮装してきたのか。キツネ耳、よく似合ってるよ」
「え…!?あ、ありがと…///」
雫は、顔を真っ赤にして、照れくさそうにキツネ耳を触る。
「う、うん…その、まあ、みんなやってるし…」
(…みんな、今日はやけにそわそわしてるな。何か心配事でもあるんだろうか)
私は、自分の周りに集まった四人の姿を見て、少し首を傾げた。
ユリシアは、いつもより落ち着きがない。渚先生も、何だか緊張した様子だ。姫宮は、いつもの冷静さの中に、何か訴えかけるような視線を感じる。そして雫も、照れくさそうに俯いている。
(みんな、何かあったのか?ハロウィンで浮かれすぎて、疲れてるのかもしれないな)
教師として、私は生徒たちの様子が気になった。
(ユリシアは最近、渚先生を警戒してるように見えるし…渚先生も、何だか気を遣ってる感じがする。姫宮は、金曜日のことをまだ引きずってるのかもしれない。雫も、簿記の勉強で疲れてるんじゃないか)
私は、一人一人のことを、教師として心配していた。
でも、その心配の本質が何なのか、私にはまだ分からなかった。
「さあ、みんな。イベントが始まるぞ。楽しもう」
私は、できるだけ明るい声で、そう言った。
(今日は、みんなに楽しんでもらいたいな。ハロウィンは、年に一度の特別な日だし)
私は、ただ純粋に、生徒たちと同僚の幸せを願っていた。
でも、彼女たちの「想い」の本当の意味には、まだ気づいていなかった。
第2章:昼のハロウィンイベント(各キャラの動き)
学院のハロウィンイベントは、午前中から盛り上がりを見せていた。
各クラスで出し物が行われ、生徒たちは思い思いの仮装で楽しんでいる。
ユリシアは、魔女っ子の衣装で、クラスメイトと一緒にお菓子配りのブースを手伝っていた。

はい、どうぞ~♡ ハッピーハロウィン!
満面の笑みで配っているが、その視線は、時折、校内を歩く和先生の姿を追っている。

おにいたん…あ、渚先生とまた話してる…むぅ~!
姫宮綾香は、ミイラ姿のまま、ハロウィンにちなんだ数学クイズのブースを一人で運営していた。

この問題の答えは、フィボナッチ数列の第10項です。答えられますか?
生徒たちは、彼女の完璧すぎる出題に圧倒されながらも、楽しんでいる。
でも、綾香の視線も、やはり、時折和先生の方に向けられていた。

先生…私の「完璧」を、見てくれているだろうか…
立野雫は、キツネ耳姿で、ルームメイトの茉里絵と一緒に、お化け屋敷の案内係をしていた。

はいはい、怖がらないで進んでね~
雫の隣には、エレガントなヴァンパイア衣装を着た茉里絵がいる。

雫さん、楽しそうですわね

ま、まあね…でも、ちょっと疲れたかも
雫は、少し頬を赤らめながら、視線を逸らす。
周りでは、生徒たちがキャーキャーと楽しそうに騒いでいる。ハロウィンで浮かれている、幸せそうな声。
雫は、その声を聞きながら、ふと、自分の家のことを思い出していた。

…美咲、今日も一人で家にいるんだろうな。ハロウィンなんて、うちには関係ない。親父は酒ばっかり飲んで…
雫の表情が、少し曇る。
茉里絵は、そんな雫の様子に気づいていた。

雫さん…何か、お悩みですの?

…別に。何でもないわよ
雫は、素っ気なく答える。
でも、茉里絵は、優しく続けた。

雫さん、和先生のこと、お気になさっていらっしゃるのですか?

な、なっ…!別に!気にしてなんか…!
雫は、慌てて否定する。

ふふ、嘘はいけませんわよ。お顔が真っ赤ですわ

う、うるさいわね!あんたこそ、その衣装、胸強調しすぎなんじゃないの!?

まあ!また体型のことをいじりますの?雫さんったら、相変わらずですわね
茉里絵は、クスクスと笑う。
二人の会話は、いつものような憎まれ口の応酬だが、その雰囲気は温かい。

…ごめん。でも、似合ってるわよ、その衣装

ありがとうございます。雫さんのキツネ耳も、とってもキュートですわ♡

も、もう…!
雫は、照れくさそうにキツネ耳を触った。

…茉里絵、ほんと変わったよな。昔は、体型のことでいじったら、すっごく落ち込んでたのに…。今じゃ、コスプレ楽しんでるし、明るくなって…
雫は、少し寂しそうに微笑んだ。

…いいわよね。あんたは。お嬢様で、何不自由なく育って…

雫さん…?
茉里絵は、心配そうに雫を見つめる。

…ごめん。変なこと言ったわ
雫は、首を振った。
でも、茉里絵は、優しく雫の手を取った。

雫さん、お話ししてくださいませんか?私、雫さんのお力になりたいんですの

…茉里絵
雫は、茉里絵の優しさに、少し涙が滲んできた。

…ダメだ。こんなところで泣いちゃ…
でも、茉里絵の温かい手に触れて、雫の心の中にあった想いが、溢れてきた。

…私ね
雫は、少し視線を逸らしながら、ぽつりぽつりと話し始めた。

家が…その、あんまり良くないっていうか…。別に、同情してほしいとかじゃないんだけど

雫さん…

親父は酒ばっかり飲んで、妹の美咲がいて…。だから、私がアイドルやって、お金稼いで…。まあ、そういうこと
雫は、ぶっきらぼうに言うが、その声は少し震えていた。

でもね…
雫は、一度、深呼吸をした。

先生が…和先生が、さ。色々教えてくれたの。簿記のこととか、人生のこととか…。別に、説教とかじゃなくて。私が家のこと話したら、先生も自分のこと話してくれて…
雫の声が、少しずつ柔らかくなっていく。

先生も、昔、すっごく苦労したんだって。幼い頃から、家の家計を支えるために工場で働いたり…。お人好しだから、色んな厄介ごとを抱え込んで、大変だったって…

…
茉里絵は、静かに雫の話を聞いている。

でも、先生は…
雫は、少し俯きながら、続けた。

そんな過去を、微塵も感じさせないっていうか…。いつも優しくて、笑顔で…。だから、その…
雫は、顔を赤らめながら、小さく呟いた。

…守りたいって、思うの。先生のこと。これ以上苦労しないように…。先生が、笑顔でいられるように…って
雫は、涙目になりながらも、少し意地を張るように続けた。

…別に、変な意味じゃないわよ!ただ、その…尊敬してる人が、幸せでいてほしいって、そういうこと!
でも、雫の次の言葉は、決意に満ちていた。

だから…私、日商簿記1級を目指すって決めたの
雫は、顔を上げて、茉里絵を真っ直ぐに見つめた。

先生は1級持ってるのよ。私も、先生みたいに…いや、先生の片腕になれるくらいになりたいの。いつか、先生を支えられるようになりたい
雫の目には、強い決意の光があった。

…笑わないでよね。本気なんだから

雫さん…
茉里絵は、優しく雫の肩に手を置いた。

笑いませんわ。とても素敵な目標ですわね。雫さんなら、きっと叶えられますわ

…ありがと
雫は、少し照れくさそうに、視線を逸らした。

私も、応援していますわ。雫さんの恋も、雫さんの夢も

こ、恋って…!別に、そういうんじゃ…!
雫は、慌てて否定する。

ふふ、また嘘をつきますの?お顔が真っ赤ですわよ
茉里絵は、クスクスと笑った。

う、うるさいわね…!
雫は、顔を真っ赤にして、俯いてしまった。
でも、その顔には、少し晴れやかな表情があった。

…ありがと、茉里絵。こんな私の話、聞いてくれて
雫の心の中には、温かいものが広がっていた。
そして、渚先生は、クイーン魔女の衣装で、イベント全体の運営を手伝いながら、和先生の近くにいることが多かった。

和先生、次はあちらのブースの様子を見に行きましょうか

「ああ、そうだな。渚先生、今日は本当に助かる」

いえいえ、当然のことですから♡
渚先生は、微笑みながら、和先生の隣を歩く。

今日は、私が先生の隣にいる日。誰にも邪魔させない…!
そして、午後のイベントが終わり、夕方になった。
第3章:夕方、渚先生の作戦発動(渚先生の視点)
午後5時30分。
イベントも無事に終わり、生徒たちは帰り始めている。
私は、職員室で「報告書」の体裁を整えながら、時計をチラチラと見ていた。

午後6時のバスを…わざと逃す。それで、先生に「送ってもらえませんか?」ってお願いする…!
計画は完璧。
午後5時50分。
私は、わざとゆっくりと荷物をまとめ、報告書を「丁寧に」書き続けた。

あ、渚先生、まだ帰らないのかい?
和先生が、職員室の入り口から声をかけてきた。

あ、和先生…!え、ええ、まだ報告書が…

そうか。無理しないでね

は、はい…ありがとうございます
先生は、優しく微笑んで、職員室を出ていった。

よし…このまま、バスの時間を過ぎさせて…
午後6時10分。
バスの時間は、とっくに過ぎている。
私は、慌てたフリをしながら、職員室を飛び出した。

あっ…!し、しまった…!バス、行っちゃった…!
駐車場で、車に乗り込もうとしている和先生に、私は駆け寄った。

な、和先生…!あの、その…

渚先生?どうしたの?

あ、あの…報告書に夢中になっていて、バスを…逃してしまって…
私は、少し申し訳なさそうに、上目遣いで先生を見つめた。

ああ、それは困ったな。次のバスは…1時間後か

は、はい…

じゃあ、送っていこうか。渚先生の家は、俺の家の近くだし

やったぁぁ~!!作戦成功!!

え、えっ?い、いいんですか?

ああ、もちろん。困った時はお互い様だろ?

あ、ありがとうございます…!
私は、心の中でガッツポーズをしながら、先生の車の助手席に乗り込んだ。

えへへ♡ これで、先生と二人きりの時間…!そして、先生の家に「ちょっとだけ」お邪魔して…!
車は、夕暮れの道を走り始めた。
助手席に座りながら、私は今日の作戦を頭の中で整理していた。

今日は、ただお茶をいただくだけじゃない。もっと大事な目的があるの…!
それは、先生のお家で、私と先生の関係をきちんと示すこと。
そして、ユリシアさんに会って、私が先生の大切な人であること、将来を共に歩む関係であることを、きちんと伝えること。

先生と私は、もう特別な関係なんだから…。ユリシアさんにも、それを理解してもらわないと

ハロウィンという特別な日に、先生の家に行って、ユリシアさんと顔を合わせて、「私は先生の未来を一緒に歩む人です」って、ちゃんと事実を作らないと…!
でも、私の心の中には、少しだけ不安もあった。

…ユリシアさん、怒るかな。でも、先生が大切にしてる子だから、私もちゃんと向き合わないと…
第4章:夜、和先生の家にて(三者の交錯)
午後6時40分。
和先生の車は、彼の家に到着した。

渚先生、ちょっと待っててくれるかな。ユリシアに言ってから、君の家まで送るから

あ、あの…和先生
私は、少し躊躇いながら、言った。

実は…少し喉が渇いてしまって…もし、ご迷惑でなければ、お水を一杯いただけませんか?

ああ、それなら。じゃあ、ちょっと上がってくれ

(やった…!♡♡
私は、ドキドキしながら、先生の後についていった。

ただいま、ユリシア
先生が、部屋のドアを開けると、中から甘い香りが漂ってきた。

おかえりなさい、おにいたん♡ …あれ?
リビングから現れたのは、魔女っ子衣装のままのユリシアだった。
彼女の手には、カボチャの形をしたクッキーの皿が乗っている。

な、渚先生…!?ど、どうして…!?
ユリシアの表情が、一瞬で曇る。
「ユリシアさん、こんばんは。ごめんなさい、バスを逃してしまって、和先生に送っていただく途中で…お水を一杯いただけますか?」
私は、できるだけ丁寧に、笑顔で言った。

……
ユリシアは、何も言わず、私をじっと見つめている。

…まずい。この雰囲気…

ユリシア、渚先生にお水を出してあげてくれるか?
和先生が、優しく声をかける。

…分かったもん
ユリシアは、不機嫌そうに、キッチンに向かった。

…ユリシアさん、怒ってる…。でも、仕方ない。だって私はもう、先生の大切な人になったんだからっ!
リビングに通された私は、ソファに座った。
和先生も、向かいのソファに座る。

渚先生、今日は本当に助かったよ。イベントの運営、完璧だった

い、いえ…!そんな、当然のことですから…!
私は、顔を赤らめながら、答えた。

先生…こんな風に、二人で話せるなんて…!
その時、ユリシアが、お水とクッキーの皿を持って戻ってきた。

はい、お水
少し乱暴に、コップを私の前に置く。

あ、ありがとう、ユリシアさん

…それで、渚先生。いつ帰るんですか?
ユリシアの声は、明らかにトゲがある。

ユリシア、そんな言い方は失礼だぞ
和先生が、優しく諭す。

だって…!おにいたん、今日は、ユリシアと二人で、ハロウィンを楽しむ予定だったのに…!
ユリシアは、涙目で、先生を見上げた。

…あ
その時、私は気づいた。
テーブルの上には、手作りのカボチャクッキーが、綺麗に並べられている。
部屋には、ハロウィンの飾り付けもされている。

…ユリシアさん、先生のために、一生懸命準備してたんだ…

「ユリシア、渚先生は困ってたから、助けただけだよ。君も、困ってる人を見たら、助けるだろ?

それは…そうだけど…
ユリシアは、俯いてしまった。
私は、胸が締め付けられる思いがした。

…私、間違ってる?ユリシアさんの大切な時間を、奪ってしまってる…?

あの…和先生。やっぱり、私、今日はこれで…
私が、そう言いかけた時。
ピンポーン♪
玄関のチャイムが鳴った。

ん?こんな時間に誰だろう?
和先生が、玄関に向かう。
そして、ドアを開けた瞬間。
「トリック・オア・トリート~!!」🎃✨
元気な声が、部屋に響き渡った。
第5章:雫たち4人組の押し掛け!(雫の視点)

…なんで、私、こんなことやってんだろ…
私、立野雫は、和先生のアパートの玄関前で、心の中で叫んでいた。
隣には、ヴァンパイア衣装の茉里絵。アニマル衣装の柚羽。そして、ミイラ姿の姫宮綾香。

雫さん、本当に行きますの?
茉里絵が、心配そうに私を見つめる。

…行く。だって、姫宮のことも知っておかないと、先生の周りの状況が分からないし

で、でも…先輩、和先生、びっくりするんじゃ…
柚羽が、おずおずと言う。

…大丈夫。先生は、優しいから、きっと受け入れてくれる
私は、そう言いながら、チャイムを押した。

…こんな大勢で押しかけるなんて…。でも、一人で行く勇気もなかったし…。それに、渚先生がいる可能性もあるし…。ユリシアだけじゃなく、渚先生まで相手にするなんて、一人じゃ無理…!それなら、いっそみんなで行った方が…!
ドアが開いた。

し、雫…?それに、橘、如月、姫宮まで…?
和先生は、驚きを隠せない様子だ。

せ、先生…!お、お邪魔しまーす…!
私は、少し照れくさそうに、部屋に入っていく。

和先生、こんばんは。突然お邪魔して、申し訳ございませんわ
茉里絵が、上品に頭を下げる。

な、和先生…!あ、あの、雫先輩に連れられて…
柚羽は、恥ずかしそうに、私の後ろに隠れている。

…先生。私も、参加させていただきます
姫宮綾香は、いつもの冷静な口調で言った。

え、ええ…?ど、どうして…?
和先生が、困惑している。
その時、リビングからユリシアが駆け寄ってきた。

まりちゃん!雫ちゃん!柚羽ちゃん!…それに、姫宮さんまで!?

ユリちゃん♡ ごめんなさいですわ、急に押し掛けてしまって
茉里絵が、申し訳なさそうに微笑む。

ユリシア、その…ごめん。どうしても先生の家に来たくなって…
私は、バツが悪そうに、頭をかいた。

…ああ、やっぱりこんなの不味いよね、私のバカバカバカッ…!
その時、リビングから渚先生が現れた。

あら、皆さん…?
「「「「な、渚先生…!?」」」」
私たちも、驚きを隠せない。

え、ええ…私も、偶然、こちらに…
渚先生は、少し気まずそうに、答えた。

…やっぱり、渚先生、いたんだ…!

あの…和先生。私たちも、ハロウィンのお菓子を持ってきましたの。よろしければ、ご一緒に…
茉里絵が、袋からお菓子を取り出す。

せ、先生…!わ、私も、お菓子…!
柚羽が、小さな袋を差し出す。

…私は、論理的に最適化されたハロウィンクッキーを焼いてきました
姫宮綾香も、クッキーの箱を差し出した。
和先生は、完全に困惑している。

え、ええ…じゃあ、みんなで…?
リビングには、今や、7人が集まっていた。
和先生、ユリシア、渚先生、私、茉里絵、柚羽、姫宮綾香。

…これは…
和先生は、頭を抱えそうになった。

一体、どうなってるんだ…!?
第6章:大混戦のハロウィンパーティー
結局、リビングのテーブルには、全員分のお菓子が並べられることになった。
ユリシアの大人のカボチャクッキー🍪。
茉里絵の手作りパンプキンケーキ🎃。
柚羽の可愛いハロウィンキャンディ🍬。
姫宮綾香の論理的に最適化されたクッキー。

わぁ…すごい量だな…
和先生は、苦笑いしながら、お茶を淹れ始めた。

和先生、私もお手伝いします
渚先生が、立ち上がる。

あ、じゃあ、ユリシアも…!
ユリシアも、慌てて立ち上がった。

私もお手伝いいたしますわ
茉里絵も、優雅に立ち上がる。

あ、あの、私も…!
柚羽も、おずおずと立ち上がった。

…効率を考えれば、人数が多すぎます。私が最適な配置を…
姫宮綾香も、立ち上がろうとする。

い、いや、そこまでしなくても…!
和先生は、完全に困惑していた。

おにいたん、ユリシアが淹れてあげるもん!

和先生、私が淹れます

和先生、私が…
キッチンは、一瞬にして混雑した。
その様子を、リビングから見ていた私は、ため息をついた。

…なんだ、この状況…。私、なんでこんなことに…

雫先輩…大丈夫ですか?
柚羽が、心配そうに声をかけてきた。

う、うん…大丈夫
私は、苦笑いする。

でも…先生の困ってる顔、ちょっと可愛い…かも
結局、和先生がお茶を淹れ、全員がリビングのテーブルに座ることになった。
和先生を囲むように、6人の女性たちが座っている。

じゃあ…かんぱーい?
和先生が、少し困ったように、お茶のカップを掲げた。
「「「「「「かんぱーい♡」」」」」」
全員が、それぞれの想いを込めて、カップを掲げた。

おにいたん、ユリシアのクッキー、食べて♡
ユリシアが、クッキーを差し出す。

和先生、私のケーキも、よろしければ…
茉里絵が、ケーキを差し出す。

せ、先生…!わ、私のキャンディも…!
柚羽が、恥ずかしそうに、キャンディを差し出す。

先生、私のクッキーは、カロリーと栄養バランスを最適化してあります
姫宮綾香も、クッキーを差し出した。

な、和先生…私も…
渚先生も、何かを差し出そうとする。

せ、先生…!あの…
私も、何かを言おうとしたが、言葉が出てこない。

…ダメだ。こんなに人がいると、何も言えない…
和先生は、完全に圧倒されていた。
(…みんな、それぞれに、想いを持っている)
和先生は、一つ一つのお菓子を、丁寧に味わった。

ユリシアのクッキー、美味しいよ。少し大人の味だな
「えへへ♡」
ユリシアは、満面の笑みを浮かべた。

茉里絵のケーキも、すごく丁寧に作られてる。ありがとう
「い、いえ…!」
茉里絵は、頬を赤らめる。

柚羽のキャンディも、可愛いな。ありがとう
「わ、私…!頑張りました…!」
柚羽は、嬉しそうに、小さくガッツポーズをした。

姫宮のクッキーも、完璧な出来だ。さすがだな
「…ありがとうございます」
姫宮綾香は、少しだけ、表情を和らげた。
そして、和先生は、渚先生を見た。

渚先生も、今日は本当にありがとう
「い、いえ…!こちらこそ…!」
渚先生は、照れくさそうに、微笑んだ。
そして、和先生は、私を見た。

雫も、今日はわざわざありがとう。みんなを誘ってくれて

あ、あんた…じゃなくて、先生…!そ、その…!
私は、顔を真っ赤にして、俯いてしまった。

…先生、優しすぎる…!もう、ダメだ…!
でも、私は、もう一つ、言わなければならないことがあった。

…あの、先生
私は、意を決して、顔を上げた。

私、先生のこと…その、色々教えてもらって…簿記のこととか、人生のこととか…
私の声は、少し震えていた。
和先生の表情が、少し驚いたように変わった。

雫…

先生は、その…いつも優しくて、みんなに平等に接してて…。だから…私は、先生のこと、尊敬してる
私は、そう言って、和先生を真っ直ぐに見つめた。

これからも、先生から、色々学ばせてください

…ああ。こちらこそ、雫の頑張りに、いつも励まされてるよ
和先生は、優しく微笑んだ。
リビングは、一瞬、静かになった。

……え?
ユリシアが、目を丸くして、私を見つめている。

雫さん…今、何て…?
渚先生も、驚きを隠せない様子だ。

…立野さんが、先生を『尊敬してる』と…?
姫宮綾香も、冷静な表情を崩して、私を見つめている。

あら…雫さん、素直になりましたわね
茉里絵が、クスクスと笑う。

せ、先輩…!
柚羽も、驚いたように、私を見ている。

…やば
私は、みんなの視線に気づいて、顔が真っ赤になった。

そ、そんなんじゃないからっ!!
私は、慌てて否定する。

べ、別に、先生のことが好きとか、そういうんじゃなくて!ただ、その、教師として尊敬してるって、そういう意味で…!

雫ちゃん、顔真っ赤だよ~?
ユリシアが、少し意地悪そうに笑う。

う、うるさいわね!!
私は、顔を両手で覆った。

…なんで、こんなこと、みんなの前で言っちゃったんだろ…!
でも、和先生は、優しく笑っていた。

雫、ありがとう。嬉しいよ
その言葉に、私の心臓が、さらにドキドキした。

…もう、ダメだ…
私は、俯いたまま、小さく呟いた。

…どういたしまして
リビングには、少し温かい空気が流れていた。
全員が、それぞれの想いを抱えながら、和先生を見つめている。
和先生は、深く息を吐いた。

みんな…ありがとう。今日は、本当に楽しいハロウィンだった
そう言って、和先生は、全員に向けて、穏やかに微笑んだ。

…俺は、みんなに誠実に向き合わなければならない

でも、どうやって…?
和先生の心の中には、まだ答えが見つからなかった。
でも、この瞬間、この温かい空間が、確かに存在していた。

おにいたん、大好き♡
ユリシアが、小さく呟いた。

和先生…
渚先生が、微笑む。

先生…
私が、俯いたまま、小さく呟いた。
そして、夜は更けていった。
7人の想いが交錯する、特別なハロウィンの夜。
それは、誰にとっても、忘れられない一日となった。






