Tsundere Heartbeat ~ツンとデレのあいだで~
「……はぁ」
放課後の空き教室で、私はひとり、スマートフォンの画面を見つめていた。
表示されているのは、以前作った自分のMV。
『Don’t Get Me Wrong!』
懐かしい。
あの頃の私は、今よりずっと意地っ張りだった。
いや、今だって別に素直になったわけじゃない。
そこは勘違いしないでほしい。
ただ……。
「このおっさん!」なんて言葉を、最近は少しだけ、言いにくくなった。
だって、先生はちゃんと見ていてくれたから。
私がアイドルの仕事と勉強を両立しようとしていることも。
試験で思うようにいかなくて悔しがっていたことも。
負けたくないって、必死に踏ん張っていたことも。
全部、ちゃんと。
「雫は頑張っている」
そんなふうに言われたら、怒れないじゃない。
怒りたいのに。
強がりたいのに。
胸の奥が、勝手に熱くなる。
「……ほんと、ずるい」
私は小さくつぶやいて、ノートを開いた。
ページの端には、書きかけの歌詞。
Tsundere Heartbeat
ツンデレハートビート。
自分で書いておいて、少し恥ずかしくなるタイトルだった。
でも、これ以外に思いつかなかった。
だって、今の私の心臓は、まさにそんな感じなのだ。
先生の前では、平気なふりをする。
「別に」って言う。
「たまたまです」って言う。
「先生のためじゃありません」って言う。
でも本当は、先生に見てほしい。
私がどれだけ頑張っているか。
どれだけ変わろうとしているか。
どれだけ……先生の言葉に、支えられているか。
「……っ、なに考えてるのよ、私」
顔が熱くなって、私はノートを勢いよく閉じた。
でも、閉じたところで意味はない。
歌詞はもう、私の中にある。
強がりも。
悔しさも。
憧れも。
どうしようもないくらいの胸の高鳴りも。
全部、歌にすればいい。
だって私はアイドルだから。
言葉で素直に言えないなら、歌えばいい。
まっすぐ見つめられないなら、ステージの上からなら見つめられる。
照れくさくて逃げ出したくなる気持ちだって、ライトを浴びれば表情に変えられる。
それが、私の“魅せ方”なんだから。
SUNO AI

初回盤:キツネ娘バージョン
……本当は、もっとかっこよく攻めるつもりだった。
狼男みたいに、鋭くて、強くて、誰にも媚びない感じで。
でも、完成した姿を見たら、どこかキツネ娘みたいで……少しだけ可愛さが混じっていた。
「……まあ、悪くないじゃない」
私は画面の中の自分を見ながら、そうつぶやいた。
かっこいいだけじゃない。
可愛いだけでもない。
強がっているのに、どこか寂しそうで。
睨んでいるのに、どこか見てほしそうで。
それは、思っていた以上に、今の私らしかった。
先生がこのMVを見たら、どう思うだろう。
「雫らしいね」って笑うだろうか。
「かっこいいよ」って言ってくれるだろうか。
それとも……。
「可愛いね」なんて、言ってくれるのだろうか。
「……っ!」
そこまで考えて、私は慌ててスマートフォンを伏せた。
別に、先生に可愛いって言われたいわけじゃない。
……いや、少しは言われたいけど。
少しだけ。
ほんの少しだけ。
雫より
……というわけで。
『Tsundere Heartbeat / ツンデレハートビート』
キツネ娘版と、うさぎ版。
どちらも、私なりに本気で作ったMVです。
キツネ娘版は、ちょっと強がっていた頃の私。
うさぎ版は、少しだけ素直になりかけている今の私。
……別に、どっちが本当の私とか、そういうわけじゃないから。
どっちも私。
どっちも、立野雫。
アイドルとして、女優として、そして……。
先生に、ちゃんと見てほしいって思ってしまう、私。
「……っ、なに言ってるのよ、もう」
と、とにかく!
聴きなさい。
ちゃんと見なさい。
……でも、もし感想をくれるなら。
「雫らしかったよ」って、言ってくれたら。
少しだけ……嬉しいかも。
なんて。
言うわけないでしょ。
でも――。
見てくれて、ありがとう。
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