消した文字の、その続き ~雫のツンデレ日記~

第3学年雫の日記

2026年7月20日(月)

今日は、机の引き出しを整理した。

別に、急に几帳面になったわけじゃない。
プリントも台本も増えすぎて、引き出しが閉まらなくなっただけ。

……本当に、それだけ。

奥から出てきたのは、去年使っていた日記帳だった。

何となく開いたページには、湖畔の花火大会のことが書いてあった。

最初の一行。

「別に、花火が特別楽しかったとか、そんなんじゃないんだからね」

去年の私、最初から全力で否定してるんだけど。💢

会場までの道が人でいっぱいだったこと。
ユリシアが、いつもどおり「おにいたん♡」って騒いでいたこと。
柚羽が湖に映る花火を見て、目をきらきらさせていたこと。

読んでいるうちに、あの夜の景色が少しずつ戻ってきた。

……でも。

一番はっきり思い出したのは、やっぱり和先生だった。

湖から風が吹いて、少しだけ肩が震えた時。

あの人はバッグから白いストールを出して、

「君は以前から、少し冷え性だっただろう?」

なんて言った。

何なのよ、それ!!

どうして覚えてるの!?

こっちは寒さより、その一言で心臓が止まりそうだったんだけど!😳

しかも、浴衣まで褒めてきた。

「本当によく似合ってるよ」って。

あの時は社交辞令だと思おうとした。
先生が生徒に言う、普通の褒め言葉だって。

でも、ついこの前も夜の海岸で、

「これまで何年も雫を見てきたからね」

なんて言われた。

……何年も。

ということは、あの花火の夜も、ちゃんと私を見てたってこと?

いや、待って。

それは先生としてでしょ。
生徒が寒そうにしてたから気づいただけ。
浴衣を褒めたのだって、引率の先生として場を和ませようとしただけ。

分かってる。

分かってるけど!!

そんなふうに優しくされたら、期待するなって方が無理じゃない!?💥

目を閉じると、今でも思い出せる。

夜空いっぱいに開いた花火。
湖面に揺れる光。
肩に掛けたストールの温かさ。

そして、花火じゃなくて先生の方を見てしまった私。

目が合った瞬間、どうして笑ったんだろう。

もっと澄ました顔をすればよかった。
いつもみたいに「何見てるのよ」って言えばよかった。

なのに、あの時の私は、びっくりするくらい嬉しそうに笑ってる。

記憶の中では、周りにみんながいたはずなのに、先生の姿ばかりが残っている。

何、この脳内編集。

和先生以外、ほとんど映ってないんだけど。

危険!

非常に危険!⚠️

日記の最後には、強く消した跡があった。

紙を斜めにすると、今でも読める。

「あんたの隣で、また……」

……。

…………。

続き、知ってる。

忘れるわけない。

また来年も、あんたの隣で花火を見たい。

そう書こうとして、恥ずかしくなって消した。

去年の私は、自分の気持ちを認めることさえ怖かったのかもしれない。

でも今は、もう知ってる。

私は和先生が好き。

すごく好き。

卒業するまでは、生徒と教師。
今は、それでいい。

それでも今年、またみんなで花火を見に行けるなら。

ほんの少しだけでいいから、先生の近くにいたい。

また寒そうにしていたら、気づいてほしい。

……いや、それはわざとらしすぎる!

今年は自分でストールを持っていく!
三年生なんだから、そのくらい準備できるし!

でも。

花火が一番綺麗に開いた時。

私が隣を見たら、そこに先生がいてほしい。

今度は、目が合っても逸らさない。

たぶん。

……三秒くらいなら。

私は、去年消した文字の続きを、今度はボールペンで書いた。

今年も、和先生の隣で花火を見たい。

書いた。

本当に書いちゃった。

何これ!

ものすごく恥ずかしいんだけど!🫣

でも、消さない。

というか、ボールペンだから消せない。

……わざとボールペンを選んだんだから、これでいい。

私は日記帳を閉じて、引き出しへ押し込んだ。

カチリ。

鍵をかける。

取っ手を二度引っ張る。

よし。

完璧。

今年の花火までに、もう少しだけ素直になれたらいい。

もちろん、和先生本人には――。

まだ、絶対に言わないけど。

湖畔の記憶、消した文字 ~雫のツンデレ日記~ 2025盛夏(第2学年編・11-3)
別に、花火が特別楽しかったとか、そんなんじゃないんだからね。💢会場に着くまでの道は人が多くて暑かったし、ユリシアは相変わらず「おにいたん♡」ってうるさかったし…...