2026年7月26日(日曜日)
アオちゃん限定イラスト集を発見!
日曜日の朝。
和先生は、淹れたてのコーヒーを片手に、リビングのパソコンでニュースを眺めていた。
経済、教育、地域情報――。
普段なら、気になった記事をいくつか静かに読み、午前中を穏やかに過ごすところである。
ところが、画面の隅に表示された一枚の広告を見た瞬間――。
和先生の手が止まった。
真夏の特別企画!
三つ子バニーズ・アオちゃん
独占限定イラスト集、予約受付開始!
「…………」
和先生は無言で眼鏡を押し上げた。
広告を拡大し、もう一度、最初から最後まで読み直す。
そして数秒後――。
「な、なんだって!? アオちゃんの独占限定イラスト集!?」
日曜日の静かなリビングに、普段の和先生からは想像もできないほど弾んだ声が響いた。
広告には、南国のリゾートホテルにあるプールサイドで、ピンク色の水着を着たアオちゃんが、照れくさそうに微笑んでいる姿が掲載されていた。
三つ子バニーズの末っ子。
人前に出るのが苦手で、見つめられるとすぐに頬を赤くしてしまう、和先生の最推しキャラクターである。
「これは……すごいぞ」
和先生は、コーヒーカップをテーブルへ置くと、画面へぐっと身を乗り出した。
「アオちゃん単独のイラスト集なんて、今まで一度もなかったはずだ。それが、まさか真夏のプール撮影で……しかも限定版!」
声が、どんどん大きくなっていく。
予約ページには、イラスト集の撮影中に収録された短い映像が、いくつか掲載されていた。
次の映像では、プールサイドに座ったアオちゃんが、冷たいジュースの入ったカップを両手で持っている。
どうやら撮影スタッフから、少し可愛らしい仕草で飲んでみてほしいと頼まれたらしい。
動画①:ジュースを飲むアオちゃん
最初は少し戸惑ったようにカメラを見つめていたアオちゃんだったが、やがてジュースを胸元へ大切そうに抱えると、恥ずかしそうに小さく首を傾けた。
そして、カメラの様子をそっとうかがいながら、ストローに口をつける。
ひと口飲んだアオちゃんは、嬉しそうに目を細めた。
さらにもう一度、今度は先ほどよりも少しだけ大げさに首を傾け、頬を赤らめながら、にっこりと微笑む。
まるで、
『お兄様……アオ、可愛くできていますか……?♡』
と、画面の向こうへ問いかけているかのようだった。
「な、なんだ今の仕草は……!」
和先生は、思わず椅子から腰を浮かせた。
「アオちゃんが、自分からこんな可愛らしい飲み方を……!?」
もちろん、実際には撮影スタッフからお願いされて、一生懸命に演じているだけなのだろう。
だが、普段は人前に出るだけでも緊張してしまうアオちゃんが、恥ずかしさをこらえながら、少しでも可愛く見せようと頑張っている。
その健気さこそ、和先生にはたまらなかった。
「うんうん。ちゃんと可愛くできているよ、アオちゃん!」
和先生は、画面へ向かって何度もうなずいた。
動画の終盤では、ジュースを両手で抱えたアオちゃんが、少しずつカメラへ顔を近づけてくる。
照れたように頬を染めながら、上目遣いでこちらを見つめ、最後には満足そうな笑顔を浮かべた。
「…………」
和先生は無言で再生ボタンを押した。
映像が最初から始まる。
アオちゃんが首を傾け、ジュースをひと口飲む。
そして、もう一度、カメラへ可愛らしく微笑みかける。
「なるほど……最初は少し戸惑っているけれど、途中から撮影に慣れてきているんだな」
誰に聞かれたわけでもないのに、和先生は真剣な表情で分析を始めた。
「それに、この二回目の首の傾け方……。最初よりも明らかに自然になっている。短い映像の中でも、アオちゃんの成長が――」
そう言いながら、和先生は三度目の再生ボタンを押した。
もはや分析のためではないことは、誰の目にも明らかだった。
「いやあ……これは何度見ても素晴らしいなぁ」
和先生の頬は、すっかり緩みきっていた。
もちろん、画面の中のアオちゃんに、その喜びの声が届くはずはない。
しかし今の和先生に、そのような現実的な指摘をしてはいけない。
次の映像では、アオちゃんがカメラを意識しながら、頬に指を添えて可愛らしいポーズを取っていた。
最初は少し緊張していたものの、撮影が進むにつれて表情がほぐれ、やがて両手で頬を包みながら、カメラへそっと顔を近づけてくる。
動画②:カメラを意識して恥ずかしがるアオちゃん
『あ、あの……』
アオちゃんは、困ったようにカメラを見つめた。
『この写真も、動画も……イラスト集を買った人に見られちゃうんですか……?』
スタッフが画面の外から何かを伝えたらしい。
アオちゃんは、ますます顔を赤くした。
『いろんな人に見られちゃうなんて……や、やだよぉ……』
「アオちゃん……!」
和先生は、思わず椅子から腰を浮かせた。
「大丈夫だよ! 君が勇気を出して頑張ったことは、みんなにきっと伝わるからね!」
ユリシア、朝から推し活を目撃
そのとき。
背後から、眠そうな声が聞こえた。
「おにいたん……朝から誰を励ましてるの?🥱」
「うわっ!」
和先生は、本当に飛び上がった。
振り返ると、パジャマ姿のユリシアが、眠そうに目をこすりながら立っている。
「ユ、ユリ。起きていたのかい?」
「うん。おにいたんの大きな声で起きちゃったよ……。朝からずいぶん楽しそうだねぇ?(¬_¬)」
ユリシアは和先生の肩越しに、パソコンの画面を覗き込んだ。
「あっ、アオちゃんだ!」
「そうなんだよ、ユリ! 見てくれ! ついにアオちゃんの単独イラスト集が出るんだ!」
和先生は、待っていましたとばかりに広告を指さした。
「しかも、南国のリゾートホテルで撮影された真夏の特別版だ! 撮影中の短い動画まで公開されているんだよ!」
「おにいたん、すっごく嬉しそうだね……😅」
「ああ! アオちゃんがここまで大きな企画の主役に選ばれるなんて、長年応援してきた者として、こんなに嬉しいことはないよ!」
「長年って……アオちゃんが登場したの、去年だよね?」
「応援の濃さに、年月は関係ないんだ」
和先生は、きっぱりと言い切った。
「ふぅん……。ずいぶん熱いんだねぇ、アオちゃんには……(。•́︿•̀。)」
ユリシアは少しだけ頬を膨らませながら、画面へ目を戻した。
すると、すでに購入ページが開かれている。
しかも、数量欄には――。
三冊。
「おにいたん。どうして三冊なの?😶」
「一冊は見る用。一冊は保存用。そして、もう一冊は万が一のためだよ」
「万が一って、何が起きるの?」
「それは分からない」
「分からないの!?Σ(゚Д゚)」
「でも限定品には、あらゆる事態を想定しておく必要があるんだ!」
和先生の目は真剣だった。
いつも生徒に簿記を教えているときよりも、明らかに真剣だった。
「おにいたん……そんな真剣な顔で言われても、全然説得力ないよ……😑」
動画③:プールサイドで笑顔
画面の中では、撮影に少し慣れてきたアオちゃんが、照れながらも可愛らしくポーズを取っている。
和先生は、感慨深そうに何度もうなずいた。
「最初は、カメラを向けられただけで固まっていたアオちゃんが……こんなに自然な笑顔を見せられるようになるなんて」
「おにいたん、親戚のおじさんみたいになってるよ😂」
「成長を見守ってきたからね」
「去年からだけどね」
「ユリ。大切なのは年月ではなく、気持ちだよ」
「それ、さっきも聞いたよ……┐(´д`)┌」
次の映像が始まった。
アオちゃんは、プールサイドに座りながら、少し不安そうに指先を合わせていた。
動画④:写真や動画を見られることへの戸惑い
『私の写真も、動画も……本当に、いろんな人に見られちゃうんですね……』
アオちゃんは、しばらく恥ずかしそうにうつむいた。
『やっぱり、ちょっと怖いです……。恥ずかしいし……できれば、あんまり見られたくないです……』
「アオちゃん……」
和先生も心配そうに画面を見つめる。
しかし、アオちゃんはそっと顔を上げた。
『でも……』
頬を赤く染めながら、カメラへ小さく微笑む。
『お兄様が見てくださるなら……私、もう少しだけ頑張ります』
「もちろん見るよ!」
和先生は即答した。
「おにいたん、私が『今日のお昼は何がいい?』って聞いたときより、返事が速かったよ……😠」
「そ、そんなことはないよ」
「昨日、三回聞いたけど返事してくれなかったよ?」
「昨日は考え事をしていたんだ💦」
「アオちゃんのこと?(`ε´)」
和先生は、静かに目をそらした。
「おにいたん……図星なんだね……💢」
やがて、最後のサンプル映像が再生された。
「大好きっ! お兄様っ♡」
撮影を終えたアオちゃんが、満面の笑顔でカメラを見つめている。
『今日は、撮影を見に来てくださって、本当にありがとうございました!』
そして一度だけ恥ずかしそうに目を伏せると、意を決したように顔を上げた。
『大好きっ! お兄様っ♡』
「…………」
和先生は固まった。
数秒後、無言で再生ボタンを押す。
『大好きっ! お兄様っ♡』
もう一度。
『大好きっ! お兄様っ♡』
そして、もう一度。
『大好きっ! お兄様っ♡』
「おにいたん。何回確認するの?😑」
「映像と音声が正常に再生されるか確かめているんだよ」
「三回とも正常だったよ」
「もう一度だけ確認しておこう」
「絶対に確認じゃないでしょ!💢」
和先生は、ユリシアの抗議にも構わず、もう一度再生ボタンへ手を伸ばす。
『大好きっ! お兄様っ♡』
「うん……やっぱり素晴らしいなぁ」
目尻を下げ、すっかり頬を緩ませている和先生。
その横顔を見たユリシアは、呆れたようにため息をついた。
しかし――。
その青い瞳の奥に、いたずらっぽい光が宿った。
「ねえ、おにいたん」
「ん? どうしたんだい、ユリ」
「ちょっとだけ、こっちを向いて?」
和先生が不思議そうに顔を向ける。
ユリシアはソファの上で身を乗り出すと、和先生の耳元へそっと顔を近づけた。
そして、アオちゃんの声を真似るように、甘く囁いた。
「大好きっ……おにいたん♡♡」
「――っ!?」
和先生の肩が、びくんと大きく跳ねた。
「ア、アオちゃん!?」
和先生は勢いよく振り返った。
そこにいたのは、アオちゃんではない。
頬を赤らめながらも、いたずらが成功して満足そうに笑っているユリシアだった。
「えへへっ。引っかかったぁ~!🤣💕」
「ゆ、ユリシア!?」
「おにいたん、今、本気でアオちゃんだと思ったでしょ?」
「そ、それは……ちょうど動画を聞いていたところだったから、反射的に……」
「私の声なのに、アオちゃんと間違えたんだぁ?( ̄ー ̄)ニヤリ」
「い、いや、間違えたというより、今の言い方があまりにも似ていて……」
「じゃあ、もう一回言ってあげようか?🥰」
「えっ」
ユリシアは、今度は和先生の目をまっすぐに見つめた。
先ほどのいたずらっぽい表情から一転して、少し恥ずかしそうに頬を染める。
「大好きだよ、おにいたん♡」
「…………」
今度こそ、和先生は完全に固まった。
アオちゃんの映像を見ていたとき以上に、顔がみるみる赤くなっていく。
「お、おにいたん? 顔、真っ赤だよ?😳」
「ユリ……今のは、その……不意打ちだよ」
「アオちゃんに言われるのは平気なのに、私に言われるとそんなに照れちゃうんだ?😊💕」
「画面の中と、目の前で言われるのとでは……まったく違うよ」
「えへへっ。そっかぁ……♡」
三冊予約を阻止せよ!
ユリシアは満足そうに微笑むと、和先生の腕へそっと寄りかかった。
しかし、その視線はすぐに購入画面へ戻った。
「ところで、おにいたん」
「な、なんだい?」
「三冊は多いから、一冊にしようね?😊」
「それとこれとは話が別だよ、ユリ! 限定版なんだから、見る用と保存用と――」
「別じゃないよ! 一冊で十分っ!😤💢」
ユリシアは和先生の腕から離れると、迷うことなく数量欄の「3」を「1」へ変更した。
「あっ! ユリ、ちょっと待ってくれ!」
「待ちませんっ」
「でも、保存用がなかったら、万が一――」
「万が一って何?」
「それは……まだ分からないけれど」
「分からないもののために、同じ本を三冊も買っちゃダメです! おにいたん、前にも限定版の箱を捨てられなくて、押し入れをいっぱいにしたでしょ?😠」
「うっ……それは……」
「お部屋を片づけるのは、誰ですか?」
「……ユリです」
「毎月のお買い物を確認しているのは?」
「ユリです……」
「それじゃあ、家の中では誰の言うことを聞くの?」
ユリシアは腰に手を当て、にっこりと笑った。
その笑顔は可愛らしかったが、和先生には不思議な迫力が感じられた。
「……ユリの言うことを聞きます」
「よろしいっ!😊✨」
ユリシアは満足そうにうなずくと、そのまま「一冊」で予約内容を確定した。
カチッ。
ご予約ありがとうございました!
「やったぞ! アオちゃん限定版、予約完了だ!」
数量は一冊になってしまったものの、予約できた喜びが勝ったのか、和先生は少年のように拳を握った。
「ちゃんと一冊、大切にしようね、おにいたん」
「ああ……もちろんだよ」
「発売日には必ず受け取るぞ! 俺は絶対に――」
和先生の言葉が止まった。
ユリシアが、じっとこちらを見ている。
「おにいたん、今『俺』って言った?👀」
「……言ってないよ」
「言ったよ」
「気のせいじゃないかな」
「すっごく楽しそうに言ってたよ……😅」
和先生はごまかすように咳払いをすると、もう一度予約画面を眺めた。
その顔には、どうしても笑みが浮かんでしまう。
「いやあ……発売日が楽しみだなぁ」
「まだ予約したばっかりだよ?」
「ああ。でも、楽しみに待つ時間も含めて推し活なんだよ、ユリ」
「もう……おにいたんったら┐(´∀`)┌」
その日の午後。
和先生の机に置かれたカレンダーには、イラスト集の発売日が大きな赤い丸で囲まれていた。
しかも、赤丸は三重だった。
その横には、小さな文字でこう書かれていた。
最重要予定――必ず在宅!
ユリシアはそれを見て、呆れたようにため息をついた。
けれど、少年のように嬉しそうな和先生の横顔を見ているうちに、つい笑ってしまう。
「もう……おにいたんったら😊」
そして、パソコンの画面では――。
アオちゃんが、もう一度だけ元気いっぱいに手を振っていた。
『大好きっ! お兄様っ♡』
「……もう一回だけ見ておこうかな」
「まだ見るの!?Σ(゚Д゚)」
日曜日の穏やかな朝は、アオちゃんの声と、ユリシアの笑い声と、ときどき混じる可愛らしい嫉妬によって、いつになく賑やかに過ぎていった。🥰🐰✨







